元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。

 ――ダメだ。
 思い出したらダメだ……!

 気持ち悪くて、辛くて、目に涙が滲んだ。
 前世のことを必死に考えないようにして、頭から振り切って、少しずつ吐き気は治まっていった。

(怖い……)

 前世のことを思い出したくないと思うのは、これが初めてだった。

 なんとか落ち着いてふらつきながらもベッドに戻ると、カーテンの向こうが少しだけ明るくなっていることに気付く。
 明け方の綺麗な空が見たくてそのカーテンを少しだけ開いて、

「!?」

私は悲鳴を上げそうになった。

(なんで……!?)

 彼が……数時間前に見たフードを被ったあの姿のままの彼が、正門へと続く道にひとり佇みこちらをじっと見上げていた。
 その口元が笑っていて、私は慌ててカーテンを閉める。

(なんで……?)

 ドクドクという心臓の音が頭にまで響いていた。

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