元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。

(どうしよう……)

 アンナに視線を移して、彼女を起こそうと考えて、しかしそこで踏みとどまる。

 これは私の前世の事。
 アンナには関係のないことだ。
 優しい彼女は私を守りたいと言ってくれたけれど……。

(でも、また彼女を巻き込みたくはない)

 私はあのときのアンナのように震えている両手をぐっと握り締める。

 なぜルシアン様は私を捜していたのか。何のために私を連れていこうとしたのか。
 前世の頃から、彼のことはわからないことだらけだ。……なら。

 直接訊いてみればいい。

 怖いけれど、それが一番確実だと思った。
 もし何か悪いことに誘われたなら、しっかりと断ればいい。
 私にはあの頃のような奇跡の力など無いのだと、はっきりと言えばいい。
 そうすればきっと、私のことなんてすぐに興味を失くすはずだ。

(そうすれば、この学園から……ユリウス先生から離れなくても良いんだ)

 私は覚悟を決めて、急いで着替え始めた。
 そしてアンナがぐっすりと寝ていることを確認して、こっそりと部屋を出た。

< 50 / 260 >

この作品をシェア

pagetop