男装令嬢は竜騎士団長に竜ごと溺愛される
白竜は降り出した雨の中先を急ぐ。

雨の嫌いな竜達は苛立ち、羽ばたきも激しく全速力で飛ぶ。

「おい。ハク!!
カイルを落とすなよ!!」
並走して跳ぶ黒い竜から副団長は慌てて制する。
副団長の後ろには体調の悪いボルテ公爵が乗り、ハクには密偵と呼ばれる男、名はマイルとルイがカイルと共に乗る。


「…団長!!」
マイルが何かを察して叫ぶ。

「おい、どうした⁉︎」
副団長からは様子が分からず聞き返す。


カイルは一命を取り止めていた。
サラがマーラに預けていた聖水が役に立ったのだ。

カイルの意識が浮上する。
頭がガンガンと痛い。
俺は死んだのか?と一瞬思うが、この痛みはあり得ないだろ…。

さっきからうるさく誰かが呼ぶ声がする。

「…ル、…カイル!!」

「…団長⁉︎」

重たい体を持ち上げ辺りを見渡す。
「…ここは何処だ?」
ぼんやりする頭で考える。

「団長!!
 …カイル団長! 良かったです。」
密偵改め、マイルの声が後ろから聞こえ振り返る。

「おお!!カイル殿…良かった…。」
その後ろには白髪の男ルイが心配そうな顔で覗きこむ。

重たい体を持ち上げて、ハクに落ちないように縛り付けられていた縄を自ら外す。

「どうやら生き延びた様だな…。」

「本当に心配しやがって!!
もう少し遅かったら死んでたとこだぞ。」

「サラ妃が託した聖水が無かったら、死んでたんだぞ。
ただ、量が足りず完全には治っていないし、血が多く流れたせいでお前は2時間近く目覚めなかった。」

副団長は叫びながら話しかけるが、
「…頭に響くから叫ぶな…。」
カイルはそう言って話を制する。

「はぁー。まったく心配かけやがって…。」

とりあえず、目が覚めて騎乗するカイルを見つめ、副団長はホッと肩の荷を下ろす。

後、1時間ほどで竜騎士団の駐屯地に到着する。

雨がこれ以上酷くならなければいいが…。

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