怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました

そんな中出会ったのは、秘密警察に属しながらも、言論統制など厳しい監視下に置かれる東ドイツへ疑問を抱いていたレニー。

彼と友情を育み、一緒に西側へ行こうと計画を立てたアンドレアスだが、脱出は失敗に終わり、レニーはシュタージによって射殺されてしまう。

失意に陥るアンドレアスだったが、それでも希望を捨てなかったのは、エリスの存在があったから。

『何年、何十年かかったとしても、俺はこの壁を壊してみせる』

その宣言通り、東側に拉致されて五年後、アンドレアスは多くのデモ参加者と共に壁を壊し、ブランデンブルグ門を東側から西側へと通行した最初の人物となった、という歴史と恋愛が見事に絡み合った名作舞台だ。

芝居の終盤、アンドレアスがブランデンブルグ門を通り、西側で待っていたエリスと抱き合う場面では、ドイツを代表する作曲家、ブラームスの交響曲第一番が高らかに流れてくる。

沙綾はそのシーンで、身体中の水分が瞳から流れ出たのではと思う程、滂沱の涙を抑えきれなかった。

当然舞台はフィクションではあるが、実際にこうしてその時代を生きた人々の痕跡を目の当たりにすると、胸に込み上げてくるものがある。

「こういった悲劇を二度と生まないために、真摯に職務に取り組み、常にアンテナを張っておくべきだな」

同じく展示を食い入るように見ていた拓海が、自分自身に言い聞かせるように呟く。

真剣な表情に外交官としての使命感やプライドが垣間見え、沙綾の鼓動がドキンと跳ねた。

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