怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました

決して元彼に未練があるわけではないが、もう恋はしなくていいと思っている。

それでもこうしてやってきたのは、親友である夕妃が、自分を心配してくれていると感じたからだ。

勤めている旅行代理店の三年先輩の元彼は、同じ店舗の沙綾の後輩と浮気をしていた。

当然ふたりを責めた沙綾だが、彼らは悪びれもせずに開き直り、職場には沙綾に問題があって破局に至ったように吹聴して回っている。

今も同じ空間で仕事をしなくてはならず、職場に行くのが苦痛で仕方がないという愚痴を、夕妃は嫌な顔ひとつしないで何度も聞いてくれた。

塞ぎがちだった沙綾を休日に外に連れ出し、立ち直るのを助けてくれたのには、とても感謝している。

だが、それとこれとは話が違う。

「結婚する気もないのに婚活パーティーなんて参加したら、他の人に迷惑だよ」
「沙綾はこのくらい強引にしないと、一生恋愛なんてしないって言い出しかねないから」

さすが十年来の親友はよくわかっている。図星をさされ、沙綾は口を尖らせた。

「……私には『ミソノ』があればいいんだもん」

『聖園(みその)歌劇団』。通称、ミソノ。

未婚の女性だけで構成された劇団で、オリジナルのミュージカルやショーが楽しめる。

男性役の総称を『男役』と呼び、長身の女性団員が本物の男性以上にカッコよく演じる様が、世の女性達を虜にしているエンターテイメント。

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