怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました

女性の理想や憧れがこれでもかと詰め込まれた男役にハマってしまえば、もはや抜け出すなど不可能だと思っている。

沙綾自身も子供の頃に舞台を見て以降、十年以上のファン歴を誇る。

そして、夕妃に入団を勧めたのも沙綾だった。

共学だったものの、女子生徒の人気をひとり占めしていた夕妃に、何気なく『夕妃はミソノに入ったらあっという間にスターになりそうだね』と話したのがきっかけで、今や彼女は本当に聖園歌劇団を背負って立つ大スターに上り詰めた。

元々中性的な顔立ちだったが、劇団に入り、男役として磨かれた夕妃は、親友の沙綾から見ても贔屓目なしにカッコよく、女性とは思えないほどイケメンだ。

こうして隣を歩いていても、多数の視線が彼女に注がれているのがわかる。

「夕妃とか他の男役スターさんから十分ときめきをもらってるし、恋愛は間に合ってるよ」
「バカなこと言ってないで。ほら、エレベーターまでついていってあげるから」
「本心なのに。ひとりで参加するなんて心細いよ。せめて一緒がよかった」
「大丈夫。今回のパーティーは、男性は国家公務員限定のもので、身元がしっかりしてる人しかいないから」

そういう意味じゃないと内心でため息をつきながら、ロビー奥のエレベーターホールへ歩みを進める。

ここまで来た以上、今さらキャンセルするのも主催側に申し訳ない。

そんな沙綾の性格を見越して申し込んでいたであろう夕妃が、とぼとぼと歩く沙綾を見て励ますように冗談を飛ばす。

「それに、私が参加したら会場中の女性を掻っ攫っちゃうよ。他の男性陣に悪いでしょ?」

そんなわけないでしょ、と言わせないのが夕妃の凄いところである。

< 6 / 200 >

この作品をシェア

pagetop