怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました
実際、高校生の頃からモテていた夕妃だが、今年のバレンタインにはトラック二台分のチョコレートが劇団に届いたらしい。
「それじゃ、私これから自主稽古だから」
「うん、頑張って」
「沙綾も。頑張っていい男見つけてきて」
「いや、だから求めてないんだってば……」
苦い顔をしてみせても、夕妃はいたずらな顔をして笑うだけ。
彼女はぽんぽんと沙綾の頭を叩くと、ショートブーツのヒールの音を響かせながら、颯爽と去っていった。
「ナチュラルに男前なんだよね。見つかってファンの子に囲まれないといいけど」
時刻は午後五時四十五分。祝日の今日、街は多くの人で賑わっている。芸能人とまではいかなくとも、彼女を知っている人は少なくない。
とはいえ、彼女なら、囲まれたところでうまく対処出来るのだろうけれど。
夕妃の姿勢のいい背中を見送り、ふうっと息を吐き出してから受付へ向かう。
名前を告げてドリンクを選ぶと、プロフィールカードを渡され、今日の流れを説明された。
「会場内に入りましたら、お好きなお席に座ってこちらをご記入ください。男性に三分ごとに席を移動して頂きながら、参加者全員とお話するトークタイムがありますので、そちらでお使い頂きます。会話の糸口にしていただいたり、アピールポイントなどを書いていただくのもいいと思いますよ」
その後はフリータイムとなり、気になった人に直接声をかけていく形らしい。
極端な人見知りではないとはいえ、特に恋人や結婚相手を求めているわけではない沙綾にとって、なかなかヘビーな時間になりそうだ。