年下彼氏の結婚指導
「……上司ですか?」
 揶揄うように首を傾げる翔悟は妙に色っぽくて、思わず華子は視線を逸らしてしまった。
(何……?)
 背が高いせいか、こうして間近で見下ろされると威圧感が凄い。
 何も悪い事はしていないのに、何故かびくびくと居た堪れない気分になるのは、翔悟がずっとこちらを見つめたままだからだ。
(何なの……?)
「そ、そうよ……」

 自分の心を見透かされているようで居た堪れない。
 声に力が入らず尻すぼみになってしまうのは、急に萎んだ自信のせいだ。仕事の話だったらいくらでも言い返せるのに。……恋愛には、自信がない。どう見ても百戦錬磨の翔悟を前にしたら尚更だ。

 内心で焦っていると、頭上からくすりと笑い声が降ってきて。華子のなけなしの矜持が顔を上に向けさせた。

 気付けば身を屈めた翔悟の顔が目の前にあって息を呑んだ。
 華子がその距離に面食らっている間に、翔悟は当たり前のように顔を寄せて話しかける。
「仁科さんは俺の一時的な教育係であって、上司とは違うでしょ?」
 その言葉に華子はぎゅっと眉間に皺を寄せる。

 確かにそうかもしれないが……そんなのは言葉遊びのようなものだ。
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