年下彼氏の結婚指導
「か、揶揄わないで。あ、もう帰ろう。──終電!」
「待って下さい!」
 そう張った華子の声を上回る音量に、他の客からの視線が向く。
「な、何……?」
 真剣な顔の翔悟と視線と絡み、華子の頭を警鐘が鳴った。聞いちゃいけないのに、翔悟から視線が逸らせない。
「もっと、一緒にいたいです……」
「……、それは」
 縋るような翔悟の眼差しに息を呑んだ。
 何が言いたいのか分からない程子供でも、若くもない。
 でも彼は研修指導担当で、短いながらも華子は翔悟の上司だ。
(駄目)
 けれど頭とは裏腹に、翔悟に引かれるまま華子はその胸に収まった。
「もう少しだけ……」
 こくっと喉を鳴らした。
(女の子……)
 一体どういうつもりなのか、彼の真意は分からない。年下に振られた話を聞いて憐れんだのかもしれないし、申し訳なく思ったのかもしれない。彼には関係ないから、単純に欲でも抱いたのかもしれない。でも……
「……うん」

 嬉しいと思った。
 多分初めての女の子扱いが。
 きっとほんの一時の気まぐれでも。
 だから。

「いいよ……」
 
 今だけ流されても、いいと思った。
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