年下彼氏の結婚指導
12.
 そのまま、あっという間に就業時間が過ぎ、今翔悟は皆の前で最後の挨拶をしている。
 その様子を眺めながら、華子はそっと周りに視線を走らせた。
 女子社員の残念そうな顔に紛れ、結芽の表情はいまいち読み取れない。
 翔悟は何もないと言っていたが、どう捉えればいいのかもイマイチ分からない。
 やがて幹事が居酒屋の現地集合を呼びかける。
 PCの電源を落とし、華子も皆に合わせて席を立った。


(これで本当に、最後……なのね)
 ロッカールームで着替えながら、華子はぼんやりと呟いた。
 短い時間で心を攫われて、消化しなければならなくて……今更ながら気持ちが追いつかない。

 そんな華子の感傷を他所に、同行する女子課員たちはどこか浮かれて見える。
 翔悟と関わる社外イベントに、皆楽しみに目を輝かせている。
(……可愛いな)

「仁科さん」
 羨むような気持ちで彼女達を遠目にしていると、挑むような顔の結芽が立っていて息を飲む。
「……観月さん」

 普段の結芽は先輩であり年上である華子を敬う姿勢を見せていて、こんな表情は初めて見る。
 どきりと胸が鳴った。

「今日の準備で用意したいものがあるんですけど、一人じゃ迷いそうで、一緒に行ってくれますか?」
「……ええ勿論、いいわよ」
 きっと額面通りのお願いではない。
 結芽は華子に「話」があるのだ。
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