自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ
 それより隼人院長が敬太先生みたいだったら、私なら絶対に無理!

 想像もしたくない、考えるだけで嫌。
 
 ──私だけを見ていてほしい──

「俺は麻美菜ひとすじだ、麻美菜だけを見ている。お前の独り言は、でけぇんだよ」

 自信ありげに微笑んだあと真顔になって、心を読むように揺れる私の瞳をじっと見つめている。

 その瞬間は突然やってきた。

 不意におとずれた初めてのキス。そっと触れるか触れないかの優しい爽やかなキス。

「麻美菜を前にしてキスをするなとは拷問だ」
「隼人院」
 また唇を塞がれた。
「隼人で止めないから」  
 柔らかくした舌先で味わうみたいに舌を絡ませ、私の唾液を飲むと「甘くて旨い」って満足そう。  

 さっきとは全然違う甘くて唇も心も体もとろけそうなキス。

 まだお風呂の温かさが体の芯まで残っていてのぼせているの? それとも。
 熱い、隼人院長に触れられるたびに体のあちこちが燃えるように熱くなる。
 
 頬から首すじ肩先と羽のようになぞられると、肌が敏感になり隼人院長に抱きついてしまう。

「クリスマスのとき入院室で言っていた大切な人って誰だ、答えろ」
 よく覚えているんだ。

「言え」
「嫌です、言いたくないです」
「なぜ?」
「いうこと聞いたらキスしてもらえなくなるからです」
「率直に言うところが大好きだ」
 はっきり大好きだって。隼人院長もそういうとこ率直。

「ははん、キスをしてもらえないのが嫌で敬語もやめないのか」 
 素直に返事のしるしに頷く。

「可愛いな、麻美菜が愛しくてたまらない」と切ない声で囁かれ、息が止まりそうなほど抱きしめられた。 

「敬語を止めてもキスしてくれますか?」 
「なんだそれ。意地らしくて、どうにかなりそうだ」
「キス。してくれますか?」
「してやるよ」

 よく分からない感情が芽生える。だんだんと隼人院長が愛しくなってきて抱きついたまま離れたくなくなる。
 
「私、隼人院長のこと大好きかもしれません」
「やめろ、そんなに引っつくな。俺も男だ、反応しちまう」
「や、やだ」
「嬉しそうに拒否するな。麻美菜と約束したから、まだ既成事実は作らない、絶対にな」

「隼人院長にくっついていると心も体もリラックスします。このままずっと抱き締めていてください」

「寝ろよ。疲れてんだろ、今日は特に」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
「抱いていてください」
「言われなくてもずっと抱いている。むしろ俺の方が麻美菜を抱いていたい」 

 目を閉じたら唇に柔らかな温かい感触。

「無防備な奴め、隙だらけだ」
「私の唇は隼人院長のキスだらけです」
「麻美菜のすべてが好きだから」
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