自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ
「私なんかがエリート精鋭の先生たちと対等になれるとは思えないんです」

「私たちの方が先生たちよりも動物と接すること看ること観察することが長いのよ。だから対等なの、自信をもって」

 大樋さんは、私たちは先生にアドバイスさえも出来るって言うの。

「怖いかぁ、まずは阿加ちゃんが周りの方に興味を持ってみたらどうかしら。たとえ相手が自分に興味なくてもね」  

「俊介先生と葉夏先生となら話せます。敬太先生と朝輝先生は、ある意味危機回避のために興味があります」 

「面白いことを言うわね。確かに、あの二人は男の(さが)丸出しだもんね。隠すことさえしない」
 男性に対して免疫がない私にとって非常に助かる二人組。

「話の中で、周りの方と同感できる内容だったら同調して、距離を縮めていくことで関係性を作っていけば良いのよ」

「話の輪の中に入るんですか?」

「人見先生や波島先生は気遣って、自分から阿加ちゃんに話しかけてきてくれるでしょ。阿加ちゃんも気遣ってくれる方の想いを受け取って、自分から話しかけてごらんなさい」

 忙しい合間も診察室から出て来た一瞬も、なにかと声をかけて気にかけてくれる。

「疲れたり悩んだり弱音を吐きたかったりつらかったりって、私だけじゃないんですよね。共感出来ること、たくさんありますよね?」  

「そう、そういうこと。ちょっとしたことでも良いから話しかけてみるのよ」
「とにかく話してみると」
 私にとっては勇気と努力がいる行動。頑張ろう。

「獣医学の論文によると、自分の意見を率直に伝えられる看護師の方が、医師と良い関係が築ける傾向があると書かれてる」 

 大樋さんの学習意欲は凄いと感心している場合じゃない。獣医みたいに論文を読んでいるの? 

「なにか違うことを考えていたわね」  
 クスッと笑われてしまった。そして、もう一度教えてくれた。

「先生たちだって人間よ、スーパーマンじゃないから間違うことだってある。そのとき、私たちが率直に伝えないと患者に悪影響を与えかねない」

「患者の命を守るためでもあるんですね」 

「そう。そう考えたら動物大好きの阿加ちゃんなら、もう分かるでしょ。今すぐにでも実践してみて」 

「はい。でも、どうしましょう。隼人院長は人を寄せ付けない近寄りがたい人です」

「院長は無愛想に見えるわよね、人並み外れて率直だから誤解されてしまう。動物の命を守る想いは同じだから同感でしょ」

「それもそうですね」 
 頼れるアニテクの大先輩、大樋さんが居てくれて良かった。
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