自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ
 外来はジンクスもなんのその俊介先生とのペアは荒れることなく平和に過ぎていく。

 昼休み間際になり、昼休憩中の手術の準備で俊介先生は外来を後にした。

 その間も私は問診をして診察室を後にした。 

 初診だから、患者のなにからなにまでを飼い主から丁寧に聞き出していくので、かなりの時間を要した。
 手隙の先生どなたかいらっしゃらないかな? 辺りを見渡すと隼人院長と目と目が合った。

「お願いします、初診の子です」
 トイプーの三才の女のコ、名前は片野ヒナ。

「一年前に違う病院で心室中隔欠損症と診断されました。とても小さい穴なので手術は必要ないと言われたそうです」

「今の患者の症状は?」

「飼い主の話では呼吸が苦しそう、動悸、息切れみたいな症状があるそうです。看た感じでは脈拍の乱れも出てきています」

 隼人院長と一緒に診察室に入った。

「こんにちは、初めまして。院長の道永隼人と申します、よろしくお願いします」
「初めまして、片野と申します。ヒナをよろしくお願いします」

「早速、診察しますね。ヒナちゃんにも自覚症状がありますので、穴が大きくなっている可能性があります」

 小さい穴のままで手術なしのタイプや重症化するタイプなど、心疾患系は様々な症例がある。

「まずは、今のヒナちゃんの胸の状態がどうなっているのか検査をおこないます。ヒナちゃん、ちょっと心臓の音を聞かせてね」

 保定不要。元々おとなしい子なのか元気がないのか。

「あとは胸のレントゲンを撮って、心電図の検査をおこないますので、待合室でお待ちください。ヒナちゃんをおあずかりします」

 ヒナちゃんを抱き上げた隼人院長と検査室に向かうと検査で異常が見つかった。

 診察室に戻ると再び飼い主を招き入れ、隼人院長はエコー検査で血液の流れを調べたり、CT検査で穴の大きさなどを確認する精密検査の説明をした。

 飼い主の同意を得て、再び検査室に向かい精密検査で心房中隔欠損症が発見された。

「前医は、どこをどう診て心室中隔欠損症だと判定したんだ。穴が開いているのは心臓の上側じゃねぇかよ、このド素人が」

 検査室から診察室に帰って来て、また飼い主を診察室に招き入れる。

「ヒナの検査結果はどうでしたか? 病気はなんですか?」
 まさか精密検査までする容態だとは思わないよね。不安な気持ちは、よく分かる。
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