自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ
「どした、なにごと? おいコラ、小僧ども。徳縄を泣かした奴だぁれだ」

 太陽のようなまん丸い目を三日月みたいに細めて笑って、隼人院長の顔から順番に全員真顔の私たちの顔を覗き込んでくる。

 察しが良いようで敬太先生は「冗談だよ」と笑って首をすくめた。
 なにがあったのかと一番穏やかで怒らない優しい俊介先生に説明を求めた。

「ふぅん、そんなことがあったのか。かつては徳縄も素直な良い子でテキパキ処置をこなして優秀だったのにな」
 敬太先生が同意を求めるように俊介先生にふる。

「そうでしたね。ここで僕らが大事にしてきた子の自尊心が、非枝チームに異動して非枝先生にズタズタにされてしまう」  

 俊介先生の瞳が悲しそうに一点を見つめて、話を続ける。

「愚痴りたくもなりますよね。僕らは褒めて伸ばしていたのに非枝先生はまず叱るからスタッフの性格が歪んでしまう。僕らの労力は水の泡です」

「お嬢ちゃんよ、いつか非枝チームからうちに来られて逆に良かったと思うときがくるさ」

「とっくに思っていますよ、敬太先生。少しだけ」
「アハハハハハ、少しだけなのか」

「貧乏くじはバカ正直だよな、いつ塔馬に手を出されるか戦々恐々としている。それが唯一ネックなんだろう」

「道永しつっこいな、お嬢に手を出すかよ。ミルク臭い子には興味がないって言ったろ、好きになるかよ」

「塔馬先生のタイプは気が強い子。最近、阿加ちゃん自己主張出来るようになってきましたよ。あとニ、三年鍛えられたら瓢箪から駒っすよ」

「波島、よけいな言葉で塔馬を煽るな、塔馬も手を出すな」 
「心配すんなって」
「手を出すな、風紀が乱れる」
「だけか? 手を出すなって慌てる理由は他にあるんじゃないのか、安心しろよ」

 意味深に片眉を上げてにやりと笑う敬太先生に煽られることなく、隼人院長は聞こえないような澄ました顔で聞き流す。

「阿加ちゃん、気付いてあげられなくてごめんね」
 改まった俊介先生が申し訳なさそう。そんな、居てくれるだけで助かる存在の先生なのに。

「僕も気付かなかった、ごめんね阿加ちゃん。他のスタッフの前では優しい先輩を装って、阿加ちゃんだけに意地悪だったのかな」  
 朝輝先生も気付いていなかったんだ。

 先生たちは薄々どころか本当に勘付いていなかったんだ。
 それだけ徳縄先輩は器用に人格を変えていたんだ、簡単に人を騙して恐ろしい。
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