自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ
「非枝先生の勘違いだったのに非を認めないんですね」 

「なにを生意気な。無能なアニテク(動物看護師)のくせに俺に難癖を付ける気か。お前に給料は一円たりともあげたくない!」
 逆ギレか。
 非枝先生から給料なんかもらっていない。

「それなら俺の指示だからって、なぜ止めなかった? 知ってて俺に投薬させた阿加に非がある」

 私には、まったく落ち度はない。

「一方的やしませんか?」

「こうなることは分かっていたんだよな? それなら阿加に責任がある。俺は今でも適切な処置だと信じている、間違ったことはしていない」

 こうして罪悪感を刺激してくる言い方が苦手意識を大きくさせる。

「まぁ、どうでも良いけど」
 文句をつけて最後にこれ?
「さっきから、なにがどうでも良いんですか?」

「いや、別になんでもないけど」と鼻で笑う。なにかあるならはっきり言えよと思う。 

 本当にいちいち気にさわる言い方。

 自分より上の人には言わないのに下にだけ色々言ってくる。
 機嫌にも左右して振り回される。自分も出来てないのに言ってくる!

「ひとりで患者さんを診療するのは医療の質が間違いなく落ちます」
「他人の干渉を受けずに自由に出来る」

「獣医に力量があればが大前提です」
 いつも、なにかやらかすときは非枝先生ひとりのときが多い。

「力量がない奴は努力が足りないのだろう、日々勉強だ」
 嘘でしょ、自分を分かっていないの? それとも分かっていながらプライドが邪魔をして認めたくないの?

「周りをまったく見てないんですね。他の先生やアニテクは、わずかな時間でも惜しむように個々で勉強しています」

「寝なければいい、寝る間も惜しむことが不可能なのか」
 今は寝る寝ないの話じゃない。

「現に非枝先生は何度もミスを犯しました。ひとりで診ようとしないでください、私たちはお互いチームがあります」

「それが?」

「非枝先生の尻拭いを他の先生たちがしているんですよ、はっきり言って迷惑です」
「話はそれだけか、忙しいんだ」

 もう頭にきた。

「業務に支障が出るから仕事にならなくて困っているんです、人事課に直談判しますから」

「脅迫か、面白いな」

「本気ですよ、それでもまだ正さないのなら理事長に直談判します」

「無力なお前ごときの言い草に上が動くと思うのか、思い上がりも甚だしい」

 そうして言えば良い。無力な私でも動いてみなくちゃ分からない、動かないとなにも始まらない。

「正すのか正さないのかどちらですか?」
「どうでも良いけど」  
 いちいち怒らせる言い方なんとかならないの?

「ごめん、頭の悪いきみのレベルに合わせた会話をしないと分からないよな」

 ヘラヘラして私を馬鹿にして煽っているつもり? 平気な振りして本心を見せたくないの?
 もうかわいそうになる。

「なにを揉めている?」
「隼人院長」
「道永、今のを聞いていたのか」
「廊下で言い争えば響いて嫌でも耳に入ってくる」
「阿加がわけ分からない因縁をつけてくるんだ」
 
「俺が分からせてやるよ」
 隼人院長の特徴的な涙ボクロがぴくりと動く。
< 69 / 112 >

この作品をシェア

pagetop