自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ
 ピュアの皮膚は血流がなくなり皮膚が死んでしまった。

 壊死した皮膚をそのまま残しておくと細菌の感染源となる恐れがあるので、手先の器用な隼人院長は残すことなく切除した。

「ピュアの熱傷は広範囲の場合だから皮膚を移植する。理由は?」
 隼人院長が熱傷の範囲や部位を見極めながら質問してきた。

「治るのに時間がかかります。それに治癒後の後遺症の可能性が高くなるからです」

「ふぅん」
 この答え方のときは合っているってこと。いつもの隼人院長の素っ気ない返事。

 数時間後、移植手術は成功して無事に手術室を後にした。

 俊介先生と朝輝先生コンビの裂傷の子は手術の必要はなく、超音波で見たお腹の子たちにも異常なし。

 花形外科医の敬太先生と葉夏先生コンビは骨折の子の手術をして無事に終了。今、ケージレストでケージ内で安静にしている。

 とりあえずは数十分ほど休憩出来そう。隼人院長と大樋さんと医局に戻ったら、先生たちが手術後におこなっていた外来診療から戻って来て休憩していた。

 みんなで労い頑張った達成感に浸って気持ち良くなっていると、隼人院長が敬太先生と葉夏先生に声をかけた。

「ごめん、お前ら今日の休みを楽しみにしていたよな」

「私たち獣医は、どんなに特別なことや楽しみにしていたこともキャンセルせざるを得ないときがあります」

「道永、お前さ誰に言ってんだよ。俺と葉夏、何年獣医やってっと思ってんだよ」
 真っ白な歯並びの良い歯が見えるほど大きな口を開けて敬太先生が笑った。

「運ばれてくる患者を前にすると、獣医側の都合なんか、いかにもちっぽけなものになります」

「葉夏の言う通りだ。時には、てめぇの都合や疲れで手術適応がブレる奴もいるが、周りは振り回されるし患者に誠意があるとは言い難いがな」  

 口と女癖が悪いのは玉に瑕だけれど、敬太先生にも患者のために命を放り出す勢いの熱意がある。

「常にブレない診療態度を貫くことには、私生活を大きく犠牲にすることがついて廻るのは当然だよ。道永は女っ気ないから分かんねぇか」

「少ない自由時間に気違いじみて見えるほど、たくさんの用事を圧縮して女遊びを堪能するようになるのは仕方ねぇよな、てめぇと波島みてぇに」

「おっと、僕に流れ弾が」

「敬太、あなたのことは仕事以外のすべてを尊敬出来るかと言われれば尊敬出来ないこともある。そうだとしても、仕事に対する真摯な態度を常に崩さないことには特段の尊敬の念を抱いているのよ、私はね」
 
 葉夏先生がすぐに口をはさんできた。

 とんでもないハチャメチャな私生活を抜きにしても、葉夏先生は敬太先生を仕事だけで尊敬出来てずっと一緒に居られるんだ。

「お嬢ちゃん」
「はい!」
 私に回って来た、流れ弾なのか?
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