自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ
「そういう大した奴らが、実際の獣医療の現場を支えていることを大いに誇りに思うんだが、お嬢ちゃんはどう思う?」

「お二人は今日をとっても楽しみにしていたと思います」
 なにもなければ今ごろ楽しいイブを過ごしていたよね。

「なのに突然凄惨な重篤患者が運ばれて来たら、二人の時間を犠牲にしてすぐに駆けつけてくれました」  

「おお、そかそか。お嬢ちゃん、それは当然のことだよ。いつ、どんなときでも駆けつける。これは暗黙のうちの拘束でもあり使命感でもある」

「阿加は、よく分かんねぇことを言い出したが大した奴らだと思ってるってよ、てめぇのことも俺らのことも」
 代わりに隼人院長が口をはさんできた。

「誇りに思っています、ここに居る皆さんのことを」

「おおお、阿加ちゃん、たまに大胆になるよね。ずいぶんと上から目線だね、とてもじゃないけど僕には出来ない芸当」
 朝輝先生が可愛い顔を歪ませて苦笑いを浮かべている。

「それより、そこのほやほやカップルはどうなんだよ」
 敬太先生がいたずらっ子みたいな顔で探るような笑顔で隼人院長と私に顎で合図してくる。

 えっ、駆けつけてすぐに手術に入ったはずなのに、私たちのことはもう敬太先生の耳にも入っているわけ?!
 どんだけ噂の流れるスピードが早いの?

「イブの予定があったんじゃねぇのかぁ? ええ、どうなんだよ?」
 嬉しそうな顔でからかってくる。

「それより塔馬先生、矢神先生、お腹空いていません? 院長が作ってくださった料理をお召し上がりになられたらいかがですか?」

 いつものように大樋さんのナイスフォローが、困った私を助けてくれた。

「ホントに塔馬先生って冗談が好きよね」
 大樋さんが私にしか聞こえない声で囁き、大丈夫よって感じでぽんぽんと軽く腰を叩いてくれた。

「俺が毒味役か?」
「塔馬、てめぇは食うな。汚い口に俺の料理を入れるな」

「腹減った、大樋さんも人見先生もいただきましょうよ、さぁ早く」
 朝輝先生が二人を連れて行く際、首だけ振り向き私たちにウインクしてニコッと笑った。

 隼人院長と私を二人きりにしてくれたんだ。

「隼人院長、なんとなく顔色が悪い気がするんです、体調悪くありません? 気になるんです、大丈夫ですか?」

「お前のなんとなくは動物には効くが、他では誤作動を起こすよな。今回も誤作動だ」
「胸騒ぎがするんです、本当になんともないですか?」
「ない」

 半信半疑で気にはなるけれど「安心しろ」って言うから、手術の話題に変えよう。

「隼人院長の早急で適切な処置や繊細でスピーディーで正確な技術、凄かったです」

「あれならピュアの回復は早いはずだ。動物の命を救ったり健康に関わる仕事をしていて良かったと思う瞬間だ」

「私もです、気持ち良い」 

「よく頑張って、ここまできたな。最初のうちは脆く壊れて使い物にならないだろうと危惧していた」

「いつからか乗り越えてついて行きたいって思えるようになりました。病識や看護技術が自分や大切な人の役に立つとやっぱり嬉しいですし」

「大切な人って誰だよ」
「わっ、あっ、違っ、動物です! 大切なのは患者や飼い主です!」
 ちょうど受付から声がかかり問診に入った。
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