自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ
「隼人院長、温かい? 私がギュッと抱き締めて温めるから安心してね」
 胸の中に抱き寄せ、しっかりと抱き締めて眠りについた。

 翌朝、先に目が覚めたからなにごともなかったように起きて朝食を作り、隼人院長を起こした。

「やっぱり熱がありましたよ。みんなの目は誤魔化せても私の目は誤魔化せないですからね」

「熱なんかない、さっぱり気持ちの良い寝起きだ」
 私が裸で抱き締めて寝たの知らないんだ。 

「それなら良かったです。年末年始はお互いに風邪を引かないように気を付けましょうね」
 冷静を装っているけれど、とれだけ心配しているか分かっている? 

 今日は仕事を休ませたい。
  
「あの」
「ごめん、昨日はイブらしいことをしてやれなかった。必ず埋め合わせはする」
「ありがとうございます、それもですがひとつ」  

 言う前に起き上がろうとするから、隼人院長の腕を掴んでおでこに自分のおでこをくっつけた。

 腕もおでこも平熱かな。頬を撫で、首周りと胸元に触れてみる。大丈夫かな。

「愛撫とは積極的だな、麻美菜に風邪をうつしちまうからキスはしてくるなよ」

「ち、違いますよ、熱が下がったか触診です。キスはずっと言ってますでしょ嫌です!」

「昨夜は抱きついてきたくせに」

「それも誤解です。あっ、ちょっとなにするんですか」
 手首を引っ張られたと思ったら、瞬く間にベッドに横たわる隼人院長の腕の中に抱き寄せられた。

「ありがとう。麻美菜のおかげで熱が下がった、悪寒が止まらなかった」
「発熱はいつからですか?」 
「夢中だったから気付かなかった」

 外来診療に予定の手術、そこにピュアたちの集団の救急やその他の重篤患者。
 毎日、気が張っているもんね。

「麻美菜が待っている家に帰って来て、麻美菜の顔を見たら安心したんだろうな」

 私も隼人院長の胸の中に抱き締められていると安心するのかな。
 体の力が抜けてリラックスする。

「しばらく、こうしていてくれないか」 
 私の背中をそっと撫でる隼人院長の言葉に返事のしるしに頷く。

「仕事には普通に行くし、治療や手術をこなさざるを得ない」
 私の心配を分かっているんだ。

「風邪を引いて高熱が出て怠くてふらふらしようが、親知らずを抜歯して馬鹿みたいに腫れて激痛に見舞われようが、入院するなど物理的に行かれないというわけでない限りは行く、なにがなんでも行く」

 敬太先生も葉夏先生も、せっかくのイブの二人の予定が潰されても愚痴ることもなく、文句ひとつ言うこともなく淡々とこなしていた。
 
 それが自分たちの使命というように。

「院長である俺に対する飼い主の依存は高く、居ないと知ると不安になる飼い主がいる。俺じゃなきゃダメなんだ、俺の代わりはいない」

 それは担当医も同じだって。男性が苦手な患者の場合、葉夏先生が一身に担っているから負担がかかっていると危惧している。

「体調が悪いからと言って仕事を休むという思考は俺らにはない」

 もし感染症だったら仕事に行って誰かにうつすほうが心配だとも思うんだけれど。

「熱以外に自覚症状は?」
「恋わずらい、それも重症のな。なぁ、ここに」
 自分の唇に人差し指を当てて、閉じた瞳は頬に長い影を作って「ん、ん」とねだってきた。
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