自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ
 『先に帰っていろ』って言われて帰ったは良いが、エリートスペシャリスト精鋭の隼人院長チームに入って、初めてのクリスマスイブはくたくたに疲れて年末年始の恐ろしさの洗礼を受けたよう。

 覚悟は決めていたつもりなのに想像以上の忙しさで体力気力の消耗が激しくて、お風呂に入るのがやっとだった。

 夕食作りも到底無理だから帰りに夕食は買って来た。あとは隼人院長の帰宅を待つのみ。

「ただいま、麻美菜、ソファーで寝てたら風邪引くじゃないか」
 なんとなく遠くで隼人院長の声がした気がする。

 私のなんとなくは動物以外には効かないんだったっけ。
 夢の中の声だ。

「起きないと、またセンターに戻っちまうぞ」
 ハッとして飛び起きた。
「おかえりなさい!」
「戻られるのが嫌なのな」
 ジャケットを脱いでネクタイを緩めながら「風呂入って来るわ」って行っちゃった。

 私、飛び起きたよね。隼人院長がセンターに戻るのが嫌だと思った? 

 ひとりが寂しいなんて感覚、今までなかったのに隼人院長が居ない間寂しかった?
 自問自答してみる。

「隙あらばソファーで寝る。風邪引くじゃねぇかよ、起きねぇとキスするぞ」
 ハッとして飛び起きた、また寝ちゃったんだ。

「キスしたくて起きたんだな」
「嫌で起きたんです」
「ハグさせろ」
 私の体はシトラスの香りにふんわり包まれる。

「隼人院」
「約束しただろう、破ったらキスするぞ。言ってみ? 言えよ」
「隼人」
「それで良い、なんだよ」
「やっぱり体調悪いですよね、体が熱いです」
「当たり前だろう、風呂入って来たんだ」
「そうじゃなくて。それぐらい分かります、入浴と熱の熱さの違いくらい」

「飯食おう、腹減った」
 ちょうど良いエアコンの暖かさなのに、腕まくりする長袖シャツから見える腕に鳥肌が立っている。
 寒いんじゃないの?

 髪の毛もタオルでグシャっと二掻きしたくらいで洗いざらしの髪のまま。

「隼人院長の方こそ乾かさないと風邪引いちゃいます」
「呼び捨てしろ、敬語禁止。風邪なんか引かねぇよ、いいから飯食おうぜ」

 呼び捨ては良くて敬語は禁止。どこの王様なの、どれだけ偉いの。
 
 隼人院長、なんだかんだ食欲はあるようで夕食を完食した。

「先寝るわ」
「そうなさった方が良いです、おやすみなさい」
「ん、おやすみ」

 持て余す長い腕をめいいっぱい上に伸ばして、気持ち良さそうに寝室に入って行った。
 なんかつらそうなんだよなぁ。

 夕食の後片付けをしたり、体の動く限り用事を済ませた。さっき少しでも仮眠出来て楽になったみたい。
 私も寝ようっと。

 寝室に入り、ベッドに寝ている隼人院長を見下ろすと立っている私にも熱気が感じられるほど、顔や髪の毛が汗で濡れている。

 慌てて、起こさないように隼人院長の体を移動させシーツ交換と着替をして洗濯機を回して来た。

 習慣だって言って上半身裸でいつも寝ているのは、少しずつ慣れてきたかな。

 スプーンでスポーツドリンクを飲ませて水分補給も怠ることは出来ない。

 今夜中には熱を下げないと。私がどう止めようが明日いつも通りにセンターに行くに決まっている。

 そうこうしているうちに悪寒で震え始めた。

 よく子どものころにお母さんが私の体を温めようと抱き締めてくれた。
 私も隼人院長を抱き締めてあげよう。

 着ていた衣服を一枚また一枚と脱ぎ、裸になり隼人院長に添い寝をして抱き締めた。

 一瞬、隼人院長の肩がぴくりと動いた気がする。
 寒気で睡眠中でも震えたのかな、それとも起きている?
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