オチタカラス

猫拾われる2

 春輝サイド
 目を覚ました。
 一番最初に消毒のにおいが鼻腔をくすぐった。
 次に気が付いたのは、右手があったかったこと。
 体をあげてみると、律が、右手を握っていた。
 久ぶりだな、深く寝たのは、しかも人前で。
「律、律」
 ゆすると、
「んっ」
 寝ぼけた目で、
「春輝」
「おはよ」
 見つめていたら、ガラッと病室のトビラが開いた。
「おぉ、朝から、熱いなー、お二人さん」
 と知らない人が入ってきた。
「誰」
「若の主治医の木村。よろしくな」
「よろしく」
 てか、若って誰。
「俺の事」
 と律が言った。
 なんで、思ったことが分かった。
 まさか、エス
「パーじゃない。春輝しゃべっているから」
 嘘、この癖まだ治ってなかったんだ。
「春輝、退院できるから、帰ろうか」
「うん」
「ありがとうございました」
「行こうか、春輝」
「おきお付けて」
 誰が言ったかというと上から、
 律、僕、僕、律、木村さん。
「春輝」
「ん」
「帰ろうか」
 というと、抱っこされた。
「ん」
 律に連れられて、車に連れてこられた。
「でか」
「そうか、普通だと思うが」
 律って、金持ちのボンボンなのかな。
「鈴木、俺の家に」
「承知」
 出発した。
 なぜかずっと、律に抱っこされたままだ。
 すると、運転手さんに
「私は、若の運転手の鈴木です。よろしくお願いします。」
「春輝です」
 すると
「鈴木、春輝を見るな。」
「若、嫉妬は醜いですよ」
「嫉妬?誰がするの」
「春輝は知らなくていいこと」
「そう」
「若、親父たちにはいつ知らせるんですか」
「春輝次第」
「そうですか」
 何話してるんだろ。
 考えていると、着いたみたいだ。
「春輝、今日からここがお前の家だ」
「ん」
 いつの間にか鈴木さんはいなかった。
 連れてこられたのは、高級マンションだった。
「何階」
「最上階」
「ん」
 中に入ると、コンジェルジュの人が話しかけてきた。
「何だ、藤堂」
「この方は」
「俺のものだ」
 ペコっとおじぎした。
 すると、
「春輝、こいつに下げなくていい。
 お前も春輝を見るな。減る」
「はいはい、名前教えてくれる」
「春輝」
「春輝さん、よろしくね」
「よろしく」
「これ、家の鍵ね」
「ありがとう」
「いくか」
「うん」
 律に抱っこされたまま、エレベーターに乗った。
「律、この命尽きるまで、あなたのそばにいる」
「当たり前だ、離す気はないからな」
「ありがとう」
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