磁石な恋 ~嫌よ嫌よは嫌なだけ?~
「実は俺さ、今城と付き合ってるんだ。」

「えっ!?」

日野は鏡から悠馬に目線を移してすっとんきょうな声をあげた。

「隣の席なのに言ってなくて悪い。」

「いっいえいえいえいえ!そんな!謝らないでください!私こそすみません!本当にすみません!」

日野は大慌てで腰を直角に折った。

「でも俺もあいつもいい歳して素直じゃねえから喧嘩ばっかでさ。俺元々女心とかってやつわかってねえんだけど、あいつは猫みたいにミステリアスで更にわかんねえんだよな。怒るポイントも謎だしよ。」

「それもまた、今城さんの魅力だと思います。でも本当に大切なことはちゃんと言葉にしたり相手の気持ちを知りたかったら聞かないと駄目ですよ。経験者は語る!」

そう言って日野は笑った。今度の笑顔は痛々しいものではなかった。

「おう。なんとかやってみるわ。」

「というか、それなら今城さんとお約束あったんじゃないですか?すみません!私のせいで!私は元気なので早く今城さんのところに行ってください!」

日野は両手で力こぶを作る真似をし、足をがに股に開いた。

「いやでも日野さんを送ってかないと・・・。」

「大丈夫です!車に乗ったらまた酔っちゃいそうですし。」

「おお・・・それはそうだな。」

「ここから車だと10分かからないところに電車の駅があります。そこまで連れていって頂けたら電車で帰るので。駅の方からも会社に帰れる道あります。遠回りにはなるけど、あの混雑からするともしかしたらそっちから行った方が近いかも。私地元この辺だから詳しいんです。行きましょう!」

日野はベッドを軽く整えると荷物と部屋の鍵を掴んで部屋のドアを開けた。

「わかった。サンキュ!でもこれは俺が持つ!」

悠馬は彼女の荷物をひったくると早足でエレベーターに向かった。
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