甘い恋をおしえて
「夏休み、たくさん遊ぼうな!」
佑貴が話しかけると、碧仁も笑う。
「うん!」
「今日はなにしようか?」
「水族館!」
「よし! これから水族館に行って、マンタを見よう!」
「なに? マンタってなに?」
「見てのお楽しみだよ」
よく似た顔で笑いあいながら、ふたりはいつの間にか手をつないでいる。
「え、待って! 私も行くから!」
莉帆はすでに置いてきぼりになりそうだ。
「ママ、早く~」
莉帆がふたりの側に行くと、佑貴が短いキスを頬にしてくれた。
「もちろん、三人一緒だよ」
「そうね、三人でね」
「すぐに四人になるさ」
お互いの思いを確かめあってから、まるで夜が待ちきれないと言った言葉が続く。
佑貴は甘い言葉で責めてくるが、莉帆はそれが嫌ではない自分に驚いた。
(きっと、同じ気持ちなんだ)
佑貴との初めてのデートは、初めての家族でのお出かけになった。
夫と息子が自分の側にいる。
莉帆はニッコリ笑うと、佑貴の腕に右手をかけた。
莉帆の左手は碧仁の頭を撫でている。
「しゅっぱつ~」
碧仁の声が坪庭に響く。
「碧仁、お出かけするなら虫かごは置いていくのよ」
居間から慌てた様子で英子が姿を見せた。
話し合いが気になっていたのか、玄関に三人揃った姿を見ると嬉しそうに微笑んだ。
碧仁から蝉と抜け殻でいっぱいの虫かごを受けとる時は、ちょっと顔をしかめたが。
「いってきまーす」
賑やかに玄関から出ると、店にいた充康も姿を見せる。
「気をつけてな」
莉帆の両親に見送られて、三人は京都香風庵を後にした。
まだ夏の盛りを過ぎたばかり。蝉時雨の中、ゆっくりと疎水沿いの道を歩いていく。
「考えることも、やらなくちゃいけないこともたくさんあるけど、今日は碧仁と遊ぶぞ」
「ええ。楽しみましょう」
会社のこと、仕事のこと、住む場所も生活も……今日だけは忘れよう。
明日から、また新しい暮らしのために最善を尽くそう。
莉帆はもうひとりではない。
甘い愛をささやいてくれる佑貴と、生きる喜びを与えてくれる碧仁がいる。
だから、頑張れる。
今日も暑い日になりそうだ。


