甘い恋をおしえて


「今ね、碧仁のお迎えに行こうと思っていたの」

莉帆の言葉に、碧仁は虫取りに行ったことを思い出したようだ。

「セミ、いっぱい! 抜け殻いっぱいだよ!」
「すごいな!」

佑貴に向かって嬉しそうに虫かごを突き出して見せている。

「碧仁、あのね」

莉帆が父親だと告げようとしたのに佑貴が気がついたようだ。
だが、彼は止めた。

「莉帆、まだ早い」
「でも!」

莉帆はすぐにでも親子として名乗りあうべきかと思ったのだが、佑貴は落ち着いていた。

「少しずつだ。いきなりはダメだ。幼い碧仁が理解できるまで、時間をかけよう」
「佑貴さん」
「ゆっくりでいい。碧仁が認めてくれるように、仲良くなりたい」

むりやり納得させるより、うんと仲よくなってからの方がいいと佑貴は判断したようだ。
確かに、まだ会ってから日も浅い。
碧仁は座り込んでセミの抜け殻を数えるのに夢中だ。
その姿を見つめながら佑貴は莉帆に囁く。

「時間はいくらでもある。これから、ずっと一緒だから」
「ええ」
「まず、碧仁とたくさん遊びたいんだ」

どこか吹っ切れた表情の佑貴は、無邪気な顔をしている。
そうなるとますます幼い碧仁とそっくりだ。


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