甘い恋をおしえて
「ただいま」
「お帰りなさい」
佑貴がマンションに帰ると、莉帆が笑顔で出迎えてくれた。
結婚してから儀式のように続いている。
「お食事になさいますか?」
「いや、風呂に入る。それから少し用事があるから食事は後でいい」
「わかりました」
まるで会社の秘書と交わす会話のようだ。
莉帆の話に無駄はないし、的確に状況を判断してくれる。
恐らく風呂上りにはミネラルウオーターを準備して書斎に運んでくれるだろう。
日常生活では、完璧な妻といえるかもしれない。
ただ一点、普通の夫婦のように体が結ばれていないことを除いたら佑貴はこの生活に満足している。
性処理には少々問題があるが、離婚前提だと心の中で決めていた割にはこの暮らしを手離したくないと思っていた。
(我ながらガキみたいだな)
美しくて気配りが出来て、料理も上手な妻なんて理想的ではないか。
この生活が快適すぎて、このまま莉帆に側にいてほしくて我慢できなくなっている。
生活だけではない。彼女の態度も声も、仕草も思いやりもすべてが自分に向けられている嬉しさ。
莉帆がいない人生なんて考えられないくらいだ。
(抱きしめたいくらい愛おしい)
彼女の美しい顔が上気して、自分の腕の中で歓びに震えるのを見たいとさえ思うのだ。
この二年余りの日々で、佑貴は莉帆を愛してしまった。
せめてもの気持ちだと誕生日やクリスマスには宝石を贈ったが、莉帆が身に着けているのを見たことはない。
母や叔母たちを見ていた彼は、女性は高価なものを喜ぶと信じていた。
宝石では愛情は買えないのだと、気がついていなかったのだ。