天涯孤独となったはずなのに幸せに溢れています
「歩くの速い?」

「いえ。そんなことないです」

啓介さんの隣にいるのが気まずいだなんて言えない。けれど私の速度に合わせていつもより少しゆっくり歩いてくれ、また隣に並んでくれた。彼の優しい気遣いを無碍にしたくなくかった。

「昨日は送ってもらってありがとうございました。あれからまた電車だと遅くなってしまいましたよね。よく眠れました?」

「あんまり眠れてないかな」

「やっぱり。遠回りさせてすみませんでした」

私が頭を下げ謝ると、彼はまたいつものように頭をかいていた。

「いや、今日が楽しみでよく眠れなかった、というか……」

「そうですか。啓介さんがそんなに楽しみにしてるのなら私も楽しみになってきました」

「楽しみになってきた? 嫌々断れないから来たんだったら申し訳なく思っていたんだけどそう言ってくれて良かった。ホッとしたよ」

「嫌々ってことはないんです。ただ、初めてなので緊張してました」

「俺だって緊張してるさ。でも嬉しいよ」

「啓介さん緊張してるんですか? そんなに凄い人なんですか?」

「ん?」

彼はふと考えるような仕草をした。
すると右手で額を押さえ、あぁ……とため息を漏らした。

「どうしたんですか?」

「いや、いいんだ。なんでもない。うん、大丈夫だ」

なんだか自分を納得させるように何度も頷く彼の仕草が面白くてつい、クスッとわらってしまった。

「大丈夫ですか?」

「あぁ」

彼もクスクスと笑い始めた。
そして小さな声で「これは手強いな」と呟いた。
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