崖っぷちで出会った 最高の男性との最高のデート(ただし個人の感想です)
 「あ、ごめん、君にしたわけじゃないから。表札、見た?」

 Y OUMIと書いてあった表札を思い出す。

 「昔ちょっと親に反抗してた時期があって、その時に『ゆう』と名乗るようになった。もう今は親とも関係は良好だけど、『ゆう』で通ってるから、そのままにしているだけだ。昔からの知り合いははるかって呼ぶし、好きな方で呼んでくれればいいよ」

 そう言われて弓弦の選択肢はひとつだった。

 「じゃあ、はるかさんで…」

 親しい人がそう呼ぶから、自分もそう呼びたい。

 私が滞在していたホテルはスカイツリーのある墨田区。そこから首都高速に乗って車は海に向かって走っていく。

 ードライブデート

 綺麗な景色を眺めながらのドライブ。
 それが私の希望だった。
 だから行き先には特に拘りはなかった。

 お台場海浜公園を過ぎ、羽田空港の方へ向かう。海の上を渡るように繋がる高速を走ると、まるで飛んでいるような気分になる。羽田空港付近ではちょうど飛行機が飛びたったところを見られた。
 そのまま海の上を走っていき、途中から海沿いを後にして伊豆半島を横断する。

 弓弦は終始はしゃいでいた。
 豪華なシートのエンジン音の静かな走りの高級車。
 悠の運転もとてもスマートで、車内に流れるジャズの調べも耳に心地いい。
 天気も申し分なく快青で、空の青、太陽の光にキラキラ輝く海、飛び交う海鳥、何もかもが特別に見えた。
 それも隣にいる人が特別だから。
 前を見て運転に集中している悠の横顔をこっそりと盗み見ては、窓の方を向いて幸せを噛み締めていた。
 あんなことがあったのに、悠はとても親切だ。
 それが罪悪感からでも同情心からでも、それは弓弦にとってはどうでもいい。
 悠が今日一日を弓弦のためにと使ってくれる。
 それだけで弓弦にとっては幸せだった。

 車は、やがて逗子マリーナに辿り着いた。
 高速を降りて暫く一般道を走り抜け、船舶がたくさん係留されている波止場近くのクラブハウスの前で止まった。

 「青海様、いらっしゃいませ、お待ちしておりました」

 車が着くと、すぐに男性が駆け寄ってきてドアマンの側に立った。

 「やあ、高垣さん、こんにちは。お久しぶり、急にお願いして悪いね」

 「とんでもございません。すぐにでも出発出来ますが、いかがいたしましょう」

 ここが目的地ではないのか? どこに行こうと言うのだろう。自分でドアを開けて外へ出た。

 「弓弦、こっちへ」

 彼は鍵を男性に預けると、自分の所へ来るようにと手を伸ばした。
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