崖っぷちで出会った 最高の男性との最高のデート(ただし個人の感想です)
 伸ばされる手に吸い寄せられるように手を乗せる。つい先日弓弦のことを乱暴に掴んだ手は、今は彼女の手を優しく包み込む。

 温かくて大きな手。父以外の男性と手を繋いだことのない弓弦は、それだけで緊張してしまう。

 彼は弓弦の手を引いて、何艘ものヨットやクルーザーが係留されている場所へ着いた。

 「じゃあ、次は海のドライブと行こうか」

 「これ、悠さんの?」

 「そう…と言いたいところだけど、親の持ち物なんだ」

 「すごいですね」

 彼に手を添えてもらってステップを渡り甲板に降り立ち、渡されたライフジャケットを身につける。

 「一応外洋にまで出られる船舶免許は持っているけど、今日は別に手配した。君と一緒に楽しみたいから」

 『君と一緒に楽しみたい』

 その言葉に弓弦の心はときめいた。
 先程の高垣がピクニックバスケットを悠に渡した。

 「どこかでランチとも思ったけど、海の上でどうかなと思って。構わなかった?」
 「え。そ、そんな、すごく素敵です」

 海の上で二人きり(正確には操縦する人もいるが)でランチなんて、弓弦の思い描いていたものよりずっと魅力のあるものだった。

 「お気をつけていってらっしゃいませ」

 高垣がお辞儀をして、見送ってくれる中、クルーザーがエンジン音を響かせ走り出した。

 風が頬に当たり髪を靡かせる。

 クルーザーは下に降りる階段があり、彼は彼女を連れてそこを案内してくれる。
 ソファと簡易キッチンにシャワーとトイレ、ベッドまである。
 下からも窓があって波が飛沫を上げているのが見える。

 「お酒、飲むんですか?」

 テーブルに置いたさっきのバスケットにはサーモンマリネやパテ、キッシュなどのオードブルや、ローストビーフにガーリックシュリンプ、フライドチキンやポテト、チーズにパン、タルトやティラミスなどのデザートまであった。
 そこにシャンパンボトルを見つけて、弓弦が尋ねた。

 「代行を頼むつもりだから、付き合ってくれる?」

 スポンと栓を抜いて、細長いグラスに中身を注ぐ。
 黄金色の液体に細かい泡の炭酸が踊る。

 「あまり、強くないと言っていたけど、こういうのは雰囲気だから。一応ソフトドリンクや水も冷蔵庫にあるけど」
 「いただきます」

 既に悠の演出する雰囲気に酔いかけていた。
< 13 / 22 >

この作品をシェア

pagetop