崖っぷちで出会った 最高の男性との最高のデート(ただし個人の感想です)
 「す、すみません」

 額に冷たいタオルを当ててもらい、船倉のベッドに横たわり弓弦は何度も謝った。

 「気にしないで。船酔いは誰にでもあることだから」

 悠はそんな弓弦の側に腰掛け、そのたびに慰めてくれる。

 釣りは最初の頃は楽しかった。こんな沖合まで来て釣りをするのは初めてで、磯釣りとは違うダイナミックさがあった。
 ただ、針に餌を付け海面に垂らした糸を眺めているうちに、弓弦は船酔いを起こしてしまった。手元をじっと見ていたのが悪かったらしい。
 とどめは餌のオキアミ。その匂いが付いた手袋が鼻に当たり、盛大にさっき食べた物を海面にまき散らしてしまった。

 もう吐けるものは何もないのに、胃液だけが込み上げてきて、喉は胃液で痛くなり、急遽港へと引き返すことになった。

 「ごめんなさい、せっかくつれてきてもらったのに」

 よく冷えた水ともらった酔い止めがようやく効き始め、滲み出た涙を擦りながら何度も謝る。

 「ストップ、もう謝るのはなし。それ以上言うとほんとにデートが台無しになる」

 そう言われると、弓弦は口を噤むしかなかった。
 ようやく弓弦の「ごめんなさい」が止まって、悠はふっと笑って弓弦の頭を撫でた。

 「そうやっていつも皆に謝って、我慢してるんだ」
 「べ、別にいつもそんなことばかりしているわけでは・・」
 「そう? 君はもう少し自分の気持ちを口にした方がいいよ。我慢ばかりして呑み込んでいると、病気になってしまう」
 「だ、大丈夫です。体には自信があるんです。あ、船酔いはしますけど」

 そんな優しい言葉をかけられると、心が折れてしまいそうになる。
 弓弦は明るく笑って後ろ向きになる気持ちを鼓舞する。泣くのは簡単だけど、彼とは楽しい思い出だけを共有したい。
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