崖っぷちで出会った 最高の男性との最高のデート(ただし個人の感想です)
「え?」
「君が好きだから、君をこれ以上悲しい目に合わせたくないと思った。君を、あんな卑劣な男に渡したくは無かった。だから俺は俺の出来ることをしたんだ」
「・・・・・」
弓弦は今聞いたことが信じられず、暫く呆然としていた。
ー好き? 悠さんが、私を?
「お、お母さん」
助けを求めて母親を振り返ると、母親がわかっているという風に頷いて、両手で弓弦の頬を思い切り引っ張った。
「い、イヒャ、イヒャヒャヒャヒャ」
あまりの痛さに涙が出た。
「ひどい、お母さん」
「ごめんね。でも、夢じゃ無かったでしょ」
ヒリヒリする頬を押さえ、母の言葉に頷く。
「青海さん、ほんとにこの子のことを? 私たちにとっては目の中に入れても痛くない自慢の娘だ。だが、あなたのような人なら、もっと美人でいい人がたくさんいるだろう」
父親が再確認する。彼もまだ信じられないらしく、弓弦のことを上げているのか下げているのかわからない言い方だ。
「お父さんまでひどい」
「ええ、弓弦さんがいいです。弓弦さんと一緒になりたいと思っています。弓弦さんとのことをどうか許してください」
しかしそんな疑問を悠は払拭するくらいはっきりと答えた。それどころかいきなり両親に承諾を求めてきた。
「悠、そこまでだ。お前、まずは弓弦さんと二人でちゃんと話し合え」
九條が割って入って、悠は自分が先走ったことに気づいたのか、申し訳なさそうに此方を見た。
「ご両親とは俺が今後のことについて話をするから。それでいいですか?」
彼の提案に一同が頷き、弓弦は悠と共にリビングを出て彼女の部屋へと向かった。
二階の弓弦の部屋は、高畠との結婚のためすでに整理されていたが、大きな家具の机と椅子やベッドはそのままになっていた。
「あの、悠さん」
部屋に入って弓弦が話をしようとすると、ふわりと悠が正面から彼女を抱きしめた。
「間に合って良かった」
少し震え気味にそう言う悠から、以前嗅いだことのある香水の薫りが漂ってきて、なぜかほっとした弓弦は、急に涙が溢れ出して止まらなくなった。
「悠さん、私・・私」
「大丈夫だ、もう心配ない。君はもう自由だ」
「怖かった・・怖かったの・・」
「うん、わかっているよ。ご両親には言えなかったよな」
きっと何十万円もするだろう悠のスーツに顔を埋め、弓弦はわんわんと子どものように泣きじゃくった。
そんな弓弦を抱きしめ、悠は黙って涙が止まるまで何度も何度も「もう大丈夫だ」と繰り返した。
「ごめんなさい。スーツ・・」
肩口が涙でしっとりと濡れているのを見て、弓弦は謝った。
「気にしないで」
ベッドに腰掛け、肩に預けた弓弦の頭を、悠は優しく撫でている。
「悠さん、さっきの言葉・・本当なんですか」
悠が自分を好きだなんて、まだ信じられなくて再度確認する。
「本当だ」
「いつから?」
「さあ・・もしかしたら、傷の手当てをしたときからか。俺のバスローブを着て、少し着崩れた君に、俺は男として反応していた。それを悟られないように怒ったように見えたかもしれない」
それだけなら、ただの性的反応とも言える。
「それだけじゃない。一緒に過ごすうちに、君に惹かれていった。でも、それは気のせいだとも思った。けれど、買ったドレスも靴もすべて君から送りかえされてきたとき、君と俺との時間をこれで終わりにしたくないという気持ちが湧いた」
弓弦にとっては決別の意味を込めた行動だったが、悠に取ってはそれが引き金になったようだ。
「気がついたらなりふり構わず動き出していた。利用できるコネは何でも利用していた」
「本当にありがとうございます」
それから悠は弓弦の肩を軽く掴んで、真正面から見つめ合った。
「今回のことは俺が自己満足でやったことだ。恩義を感じる必要もない。いずれにしろ悪人は罰せられなければならない。君や君の家族だけじゃ無く、たくさんの人があの高畠に苦しめられていた。これは過去彼に酷い目に遭わされた人や、今も苦しんでいる人たち皆のためだった。だから感謝しなくていい」
「でも・・」
「俺は君の正直な気持ちが知りたい。自惚れかもしれないが、君も俺に好意を持っていてくれていると思っている。だからこそ、俺に君のすべてを委ねてくれたんだろ?」
「ええ、悠さんの自惚れでも何でもありません。私は・・悠さんだから・・」
「じゃあ、俺と結婚してくれる?」
「こんな私で良かったら」
はにかんで弓弦がそう答えると、悠の体から緊張が一気に抜けベッドへと倒れ込んだ。
「悠さん?」
「良かった・・もし断られたら・・もう立ち直れないところだった」
「そんな、大袈裟な」
「俺はクルーザーを借りるとき、父さんに誰と行くんだと聞かれて、大事な人を乗せると言った。そして高畠の件でも下げたことの無い頭を下げて協力を仰いだ。俺がそこまでして動いた相手が、藤白弓弦という女性のためだと朱音から聞かされて、俺の両親が君に興味を持たないわけが無い。必ずいい返事をもらって家へ連れてこなければ、家の敷居を跨がせないと言われ、朱音にも朱里や生まれてくる子どもに、そんなへたれな伯父には会わせたくないと言われたんだ。本当に崖っぷちだったんだ」
「崖っぷちだったのは私の方です。そんな私を救ってくれた悠さんは、正真正銘ヒーローです。ヘタレなんかじゃありません」
「そう言ってもらえて嬉しいが、ヒーローというのは正義のため皆のために自分を犠牲にして戦う。俺は結局は自分のために動いたんだ。君を救い出し君を手に入れるために」
「誰が何という言おうと、悠さんは私がこれまでに出会った人の中で最高の男性です。そしてこれからも悠さん以上に素敵な人はきっと現われないでしょう」
弓弦がそう言うと、悠は後ろ手に手を突いてガバリと起き上がり、上から覗き込んでいた弓弦の頬に軽くキスをした。
いきなりのことに、弓弦は驚いて目を見開いた。
「ありがとう。俺にとっても、弓弦さんは今まで出会った中で一番の女性だ」
「そんな・・」
恥ずかしがる弓弦の頬に悠が手を伸ばす。
「これからもよろしく。弓弦」
「よろしくお願いしますね。悠さん」
二人は磁石が引き合うように、唇を重ねた。
そろそろ降りてきたら、と弓弦の母が声を掛けるまで、二人は何度も何度もキスをした。
「君が好きだから、君をこれ以上悲しい目に合わせたくないと思った。君を、あんな卑劣な男に渡したくは無かった。だから俺は俺の出来ることをしたんだ」
「・・・・・」
弓弦は今聞いたことが信じられず、暫く呆然としていた。
ー好き? 悠さんが、私を?
「お、お母さん」
助けを求めて母親を振り返ると、母親がわかっているという風に頷いて、両手で弓弦の頬を思い切り引っ張った。
「い、イヒャ、イヒャヒャヒャヒャ」
あまりの痛さに涙が出た。
「ひどい、お母さん」
「ごめんね。でも、夢じゃ無かったでしょ」
ヒリヒリする頬を押さえ、母の言葉に頷く。
「青海さん、ほんとにこの子のことを? 私たちにとっては目の中に入れても痛くない自慢の娘だ。だが、あなたのような人なら、もっと美人でいい人がたくさんいるだろう」
父親が再確認する。彼もまだ信じられないらしく、弓弦のことを上げているのか下げているのかわからない言い方だ。
「お父さんまでひどい」
「ええ、弓弦さんがいいです。弓弦さんと一緒になりたいと思っています。弓弦さんとのことをどうか許してください」
しかしそんな疑問を悠は払拭するくらいはっきりと答えた。それどころかいきなり両親に承諾を求めてきた。
「悠、そこまでだ。お前、まずは弓弦さんと二人でちゃんと話し合え」
九條が割って入って、悠は自分が先走ったことに気づいたのか、申し訳なさそうに此方を見た。
「ご両親とは俺が今後のことについて話をするから。それでいいですか?」
彼の提案に一同が頷き、弓弦は悠と共にリビングを出て彼女の部屋へと向かった。
二階の弓弦の部屋は、高畠との結婚のためすでに整理されていたが、大きな家具の机と椅子やベッドはそのままになっていた。
「あの、悠さん」
部屋に入って弓弦が話をしようとすると、ふわりと悠が正面から彼女を抱きしめた。
「間に合って良かった」
少し震え気味にそう言う悠から、以前嗅いだことのある香水の薫りが漂ってきて、なぜかほっとした弓弦は、急に涙が溢れ出して止まらなくなった。
「悠さん、私・・私」
「大丈夫だ、もう心配ない。君はもう自由だ」
「怖かった・・怖かったの・・」
「うん、わかっているよ。ご両親には言えなかったよな」
きっと何十万円もするだろう悠のスーツに顔を埋め、弓弦はわんわんと子どものように泣きじゃくった。
そんな弓弦を抱きしめ、悠は黙って涙が止まるまで何度も何度も「もう大丈夫だ」と繰り返した。
「ごめんなさい。スーツ・・」
肩口が涙でしっとりと濡れているのを見て、弓弦は謝った。
「気にしないで」
ベッドに腰掛け、肩に預けた弓弦の頭を、悠は優しく撫でている。
「悠さん、さっきの言葉・・本当なんですか」
悠が自分を好きだなんて、まだ信じられなくて再度確認する。
「本当だ」
「いつから?」
「さあ・・もしかしたら、傷の手当てをしたときからか。俺のバスローブを着て、少し着崩れた君に、俺は男として反応していた。それを悟られないように怒ったように見えたかもしれない」
それだけなら、ただの性的反応とも言える。
「それだけじゃない。一緒に過ごすうちに、君に惹かれていった。でも、それは気のせいだとも思った。けれど、買ったドレスも靴もすべて君から送りかえされてきたとき、君と俺との時間をこれで終わりにしたくないという気持ちが湧いた」
弓弦にとっては決別の意味を込めた行動だったが、悠に取ってはそれが引き金になったようだ。
「気がついたらなりふり構わず動き出していた。利用できるコネは何でも利用していた」
「本当にありがとうございます」
それから悠は弓弦の肩を軽く掴んで、真正面から見つめ合った。
「今回のことは俺が自己満足でやったことだ。恩義を感じる必要もない。いずれにしろ悪人は罰せられなければならない。君や君の家族だけじゃ無く、たくさんの人があの高畠に苦しめられていた。これは過去彼に酷い目に遭わされた人や、今も苦しんでいる人たち皆のためだった。だから感謝しなくていい」
「でも・・」
「俺は君の正直な気持ちが知りたい。自惚れかもしれないが、君も俺に好意を持っていてくれていると思っている。だからこそ、俺に君のすべてを委ねてくれたんだろ?」
「ええ、悠さんの自惚れでも何でもありません。私は・・悠さんだから・・」
「じゃあ、俺と結婚してくれる?」
「こんな私で良かったら」
はにかんで弓弦がそう答えると、悠の体から緊張が一気に抜けベッドへと倒れ込んだ。
「悠さん?」
「良かった・・もし断られたら・・もう立ち直れないところだった」
「そんな、大袈裟な」
「俺はクルーザーを借りるとき、父さんに誰と行くんだと聞かれて、大事な人を乗せると言った。そして高畠の件でも下げたことの無い頭を下げて協力を仰いだ。俺がそこまでして動いた相手が、藤白弓弦という女性のためだと朱音から聞かされて、俺の両親が君に興味を持たないわけが無い。必ずいい返事をもらって家へ連れてこなければ、家の敷居を跨がせないと言われ、朱音にも朱里や生まれてくる子どもに、そんなへたれな伯父には会わせたくないと言われたんだ。本当に崖っぷちだったんだ」
「崖っぷちだったのは私の方です。そんな私を救ってくれた悠さんは、正真正銘ヒーローです。ヘタレなんかじゃありません」
「そう言ってもらえて嬉しいが、ヒーローというのは正義のため皆のために自分を犠牲にして戦う。俺は結局は自分のために動いたんだ。君を救い出し君を手に入れるために」
「誰が何という言おうと、悠さんは私がこれまでに出会った人の中で最高の男性です。そしてこれからも悠さん以上に素敵な人はきっと現われないでしょう」
弓弦がそう言うと、悠は後ろ手に手を突いてガバリと起き上がり、上から覗き込んでいた弓弦の頬に軽くキスをした。
いきなりのことに、弓弦は驚いて目を見開いた。
「ありがとう。俺にとっても、弓弦さんは今まで出会った中で一番の女性だ」
「そんな・・」
恥ずかしがる弓弦の頬に悠が手を伸ばす。
「これからもよろしく。弓弦」
「よろしくお願いしますね。悠さん」
二人は磁石が引き合うように、唇を重ねた。
そろそろ降りてきたら、と弓弦の母が声を掛けるまで、二人は何度も何度もキスをした。


