崖っぷちで出会った 最高の男性との最高のデート(ただし個人の感想です)
「あ、もしかして赤ちゃん」
「え、子ども?」
悠が驚いて、朱音が触れているお腹に目を向ける。
「そう、朱里の弟か妹、もしかしたら両方かも。ちょっと前からもしかしてと思っていて、今日朱里がバレエのレッスンを受けている間に病院へ行ってきたの」
「おめでとうございます」
「ありがとう。だからちょと浮かれていて、ちゃんと前を見ていなかったかも。あなたを轢きそうになるなんて」
「事故! 朱音、お前この人を轢いたのか?!」
朱音と弓弦を交互に見て、悠は大声で朱音の耳元で怒鳴った。
「そんな大声出さなくても聞こえるわ。正確には轢いたわけじゃない。轢きかれそうになった彼女がそれを避けて転んだの」
驚いたまま悠が同意を求めて弓弦を見たので、無言で頷いた。
目を見開いて口をぽかんと空けている顔も素敵だなと弓弦は思う。
「佑には?」
「さっき言った。本当はちゃんと顔を見て報告したかったけど、二人目だし朱里もいるしね。その代わりビデオ通話したし」
すぐに彼女が戻ってこなかったのは、夫と話していたから。何年も経つのに今も仲が良くて、二人目も生まれて、旦那様が弁護士と言うことはお金持ち、その上素敵な兄妹もいて、おまけに美人でスタイルもいい。
そんな風に生まれてくるなんて、前世でどんな良いことをしたんだろう。
「あの、私、そろそろ」
幸せな結婚をしている朱音と真逆に、弓弦は自分がこれからする高畠との結婚のことを思い、今にも泣きそうになった。
これ以上ここにいたらきっと涙が出てしまう。
家に帰らずこのまま都会のどこかでひっそりと暮らそうか。そしたら高畠と結婚せずに済む。
でもそうしたら両親は? 生命保険のために本当に自殺してしまうかもしれない。
その上、暴力団と繋がりがあるという黒い噂のあるあの男のことだ。弓弦ごときが素人考えで隠れてもすぐに見つかってしまうだろう。
「え、帰るの? せっかく悠の奢りで『日永』の懐石弁当を頼もうと思ったのに」
豪華な三段重ねのお弁当箱の写真を朱音が見せる。ひとつ七千円もするのを見て弓弦は腰が抜けそうになった。
「おい、なぜ俺の奢りなんだ」
「あの、私、ほんとに・・」
「あ、注文しちゃった」
「お前なあ」
天真爛漫に振る舞う朱音に嫉妬する自分がいて、弓弦はそんな自分が嫌になった。
自分の身の丈に合わない物を望んでも自分が惨めになり、もっと不幸になるだけだとわかっている。
「えっと、藤白、さんだったか。そんなわけだから、食べていくといい。遅くなるなら車で送るから」
「あら、私が・・」
「お前はだめだ。今日彼女を轢きそうになったんだぞ。それに子どもが出来たなら少し控えることだ。車の振動が妊婦にはよくないと聞いたことがある」
「でも、青海さんも今日アメリカから戻られたところですよね。時差でお辛いでしょう」
「・・いや、これくらい構わない。それに俺たち兄妹は君に色々迷惑をかけたから」
「そうよ、悠ったらバスローブを掴んで転ばせるだなんて、大怪我しなかったから良かったものの、訴えられても仕方ないわよ」
「先に轢きそうになったお前に言われたくはない」
「悠の意地悪、ちょっともう少し妹に優しくしてくれてもいいじゃない」
「お前に優しくして何の得がある」
「ひどい」
朱音は大袈裟に胸に手を当てて悲嘆にくれる仕草をする。
「藤白さん、ひどいと思わない? 思うでしょ? 妊婦の妹に冷たい兄なんて」
「えっと・・」
矛先を弓弦に向けて自分たちの会話に巻き込もうとする。
「おい、彼女を巻き込むな。無視していいから」
どちらかの肩を持つべきか持たないべきか迷った。
言葉に窮していると、弓弦の携帯が鳴り出した。
「あ、すみません」
誰からだろう。とりあえずほっとしたのも束の間。画面に表示された掛けてきた相手の名前を見て凍り付いた。
「え、子ども?」
悠が驚いて、朱音が触れているお腹に目を向ける。
「そう、朱里の弟か妹、もしかしたら両方かも。ちょっと前からもしかしてと思っていて、今日朱里がバレエのレッスンを受けている間に病院へ行ってきたの」
「おめでとうございます」
「ありがとう。だからちょと浮かれていて、ちゃんと前を見ていなかったかも。あなたを轢きそうになるなんて」
「事故! 朱音、お前この人を轢いたのか?!」
朱音と弓弦を交互に見て、悠は大声で朱音の耳元で怒鳴った。
「そんな大声出さなくても聞こえるわ。正確には轢いたわけじゃない。轢きかれそうになった彼女がそれを避けて転んだの」
驚いたまま悠が同意を求めて弓弦を見たので、無言で頷いた。
目を見開いて口をぽかんと空けている顔も素敵だなと弓弦は思う。
「佑には?」
「さっき言った。本当はちゃんと顔を見て報告したかったけど、二人目だし朱里もいるしね。その代わりビデオ通話したし」
すぐに彼女が戻ってこなかったのは、夫と話していたから。何年も経つのに今も仲が良くて、二人目も生まれて、旦那様が弁護士と言うことはお金持ち、その上素敵な兄妹もいて、おまけに美人でスタイルもいい。
そんな風に生まれてくるなんて、前世でどんな良いことをしたんだろう。
「あの、私、そろそろ」
幸せな結婚をしている朱音と真逆に、弓弦は自分がこれからする高畠との結婚のことを思い、今にも泣きそうになった。
これ以上ここにいたらきっと涙が出てしまう。
家に帰らずこのまま都会のどこかでひっそりと暮らそうか。そしたら高畠と結婚せずに済む。
でもそうしたら両親は? 生命保険のために本当に自殺してしまうかもしれない。
その上、暴力団と繋がりがあるという黒い噂のあるあの男のことだ。弓弦ごときが素人考えで隠れてもすぐに見つかってしまうだろう。
「え、帰るの? せっかく悠の奢りで『日永』の懐石弁当を頼もうと思ったのに」
豪華な三段重ねのお弁当箱の写真を朱音が見せる。ひとつ七千円もするのを見て弓弦は腰が抜けそうになった。
「おい、なぜ俺の奢りなんだ」
「あの、私、ほんとに・・」
「あ、注文しちゃった」
「お前なあ」
天真爛漫に振る舞う朱音に嫉妬する自分がいて、弓弦はそんな自分が嫌になった。
自分の身の丈に合わない物を望んでも自分が惨めになり、もっと不幸になるだけだとわかっている。
「えっと、藤白、さんだったか。そんなわけだから、食べていくといい。遅くなるなら車で送るから」
「あら、私が・・」
「お前はだめだ。今日彼女を轢きそうになったんだぞ。それに子どもが出来たなら少し控えることだ。車の振動が妊婦にはよくないと聞いたことがある」
「でも、青海さんも今日アメリカから戻られたところですよね。時差でお辛いでしょう」
「・・いや、これくらい構わない。それに俺たち兄妹は君に色々迷惑をかけたから」
「そうよ、悠ったらバスローブを掴んで転ばせるだなんて、大怪我しなかったから良かったものの、訴えられても仕方ないわよ」
「先に轢きそうになったお前に言われたくはない」
「悠の意地悪、ちょっともう少し妹に優しくしてくれてもいいじゃない」
「お前に優しくして何の得がある」
「ひどい」
朱音は大袈裟に胸に手を当てて悲嘆にくれる仕草をする。
「藤白さん、ひどいと思わない? 思うでしょ? 妊婦の妹に冷たい兄なんて」
「えっと・・」
矛先を弓弦に向けて自分たちの会話に巻き込もうとする。
「おい、彼女を巻き込むな。無視していいから」
どちらかの肩を持つべきか持たないべきか迷った。
言葉に窮していると、弓弦の携帯が鳴り出した。
「あ、すみません」
誰からだろう。とりあえずほっとしたのも束の間。画面に表示された掛けてきた相手の名前を見て凍り付いた。