年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
 中川と呼ばれたその人は「はーい! お呼びですかぁ?」と軽い口調で走って来る。

「今日のメイク担当。お前、案内しろ」

 ぶっきらぼうに長門さんが言うのを特に気にする様子もなく、「了解っス!」と軽く答え、その人は私に向いた。

 短めの髪をワックスで立たせているのかツンツンで、背はあまり高くない。とにかく何と言うか……距離感が……近い。

「俺、中川って言います! 名前なんて言うんですか?」

 そう言って顔を覗き込まれ、思わず仰反るようにして立ち止まる。

「わ、綿貫です」
「綿貫さん。あ、こっちっス」

 私が顔を強張らせたことに気づかないのか平然としたまま中川さんは先を歩き始めた。

 年は同じくらいだと思う。もしかしたら年下かも知れない。

 一番苦手とするタイプだ……

 悪気なく、相手の都合はお構いなしに距離を縮めてくる感じ。良く言えば、親近感が持てるのかも知れないけど、私はパーソナルスペースに勢いよく入ってくる人は苦手だ。

「ここっス。何か足りないものあったら声かけて下さい。瑤子さんがなんとかしてくれます!」

 明るく元気良くそう言われ、「はあ……」と気の抜けた返事をしてしまう。自分がなんとかするんじゃないのかと。
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