年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
「ありがとうございました……」

 シートベルトを外してさっちゃんは俺を見上げる。

「えーと。今日は家の前まで送って行ってもいい?」

 少しだけでも長くさっちゃんといたいから、そんな悪足掻きをしてみる。さっちゃんは、「はい……」と小さく返事をして頷いた。

 仕事用のいつもの大きなバッグに、俺の渡したグラスの入った紙袋の両方を手に持って、俺はさっちゃんのあとを続く。

 エレベーターに乗って4階で降りた奥から二番目。そこがさっちゃんの家だった。そう広くない家の前で、俺はさっちゃんと向き合った。

「はい。今日は……ちょっとしか参加できなかったけど、楽しかったよ」

 荷物を差し出して言うと、さっちゃんは受け取った荷物を目の前で開け始めた。

「あの、これ。遅くなったんですけど……」

 そう言って、さっちゃんは取り出した包みを俺に差し出した。

「え? 俺に? いいの?」
「はい……。大したものじゃないんですけど」

 恥ずかしそうな顔をして俺を見上げるさっちゃんのその手から、俺は包みを受け取った。

「日持ちはあまりしないので……早めに食べて下さい」

 その台詞に、もしかしてわざわざこれだけ買いに行ってくれたのかと、俺は嬉しくなった。
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