年上カメラマンと訳あり彼女の蜜月まで
 しばらくさっちゃんを抱きしめてその背中を撫でていると、ようやく気持ちが落ち着いてくる。
 ヤカンからピーとお湯が沸いたことを知らせる音が聞こえてきて、俺はようやく我に返った。

「ごめんね。紅茶淹れるよ。あんまり遅くなったらかんちゃんに悪いしね?」

 そう言ってさっちゃんの肩に触れ、体を離そうとすると、さっちゃんは俺の首にしがみついたまま口を開いた。

「今日……かんちゃん、人に預かってもらってるんです……」

 首筋をさっちゃんの温かな吐息が撫でる。もちろんそれがワザとじゃないくらい分かっている。けれど、その行為と、そしてその言葉に煽られるように俺の背中はゾクリとした。

 今度は、俺のほうからまだ離れていないさっちゃんの耳元で囁く。

「それって……今日は帰らなくってもいいってこと……?」

 俺の言葉に、さっちゃんは一瞬肩を揺らし、そして無言で頷いた。
 それだけで、俺の体が熱を帯びていっているなんて、さっちゃんは想像もしないだろう。何気ない行動に、俺が煽られてるなんて。

「さっちゃん……こっち、向いて?」

 俺の言葉に素直に従い、さっちゃんはゆっくりと体を起こした。

「ほんとに……いいの……?」

 その頰を撫でるように手で触れる。恥ずかしそうに上気した頰が熱を持ち朱色に染まっている。
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