エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
第五章 彼女の肩を抱く後ろ姿
第五章 彼女の肩を抱く後ろ姿 

碧と結婚して二週間が過ぎ、珠希は新しい生活に少しずつ慣れてきた。
マンションの隣は緑豊かな公園で、日中は子ども連れの親子で賑わっている。
大型スーパーも徒歩圏内にあり、大抵の買い物には困らない。
珠希と碧の職場にも路線は違うが電車で二十分。
仕事を持つふたりが結婚生活を始めるには抜群の環境ともいえる。

「今日は一緒に食べられるかな……」

珠希は期待交じりの声でつぶやき、作り置きを詰めた保存容器を冷蔵庫にしまった。
野菜の煮物やマリネ、そして碧が好物だと言っていたピーマンの肉詰めだ。
他にもいくつかお惣菜を用意したが、今晩碧と一緒に食べられるのかは夜になってみないとわからない。
この一週間、碧は病院に泊まることが多く、ふたりで食卓を囲んだのは数えるほど。
昨夜も急患が運び込まれてオペになったらしく、日付が変わって午前八時になった今も
まだ帰っていない。
丸一日固形物を口にしない日があったことを思いだし、珠希は碧の体調を気にかけ眉を寄せた。
冬場のこの時期はとくに忙しいと聞いていたが、ここまで忙しいとは思わなかった。
初めて顔を合わせてから約一カ月。
少しでも碧との距離を詰めて夫婦らしくなりたいのだが、それはなかなか難しい。
珠希はシンクでフライパンを洗いながら、広いベッドにひとりで眠るのは寂しすぎるとため息を吐いた。




その日の午前中、珠希は白石病院内のカフェを訪れ、週末に退院予定の遥香の母と顔を合わせた。
遥香の希望通り、彼女は退院後、自宅近くでエレクトーンのレッスンを受けることになり、教室を紹介してほしいと遥香の母から連絡があったのだ。
珠希自身が遥香にレッスンしたいのだが、遥香の自宅は新幹線で一時間以上かかる地方都市。
現実的ではないと渋々あきらめた。
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