エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
調べた結果、遥香の自宅近くに珠希の同期が教えている教室があったので、そこを含めていくつかの教室を紹介した。

「通いやすさで選ぶのもいいですが、教室ごとに雰囲気も違うので、遥香ちゃんと見学に行かれてはどうですか?」

パンフレットを開き、遥香の母に説明する。
彼女は「そうですね」とうなずき、珠希が用意した教室の一覧に目を通した。

「じゃあ、うちから通えそうなこのふたつの教室を見学してみます」

遥香の母はそう言ってパンフレットをパタンと閉じる。
そしてここからが本題だとばかりに姿勢を正し、にっこりと笑った。

「色々ありがとうございました。それに、この間は宗崎先生から楽譜をいただいて、遥香は大喜びです」
「あ、グリシーヌの楽譜ですね。喜んでもらえて良かったです。私もあの曲が大好きで、よく弾くんですよ」

珠希は声を弾ませる。
あのクリスマスソングは碧も気に入っていて、弾いてほしいとよくせがまれるのだ。最近では防音室にソファを運び入れ、珠希の演奏を存分に楽しんでいる。
とはいえこの二日間碧は帰宅できず、珠希は演奏してあげたくてもできずにいる。

「宗崎先生も、あの曲が好きですよね」

遥香の母は珠希から受け取った資料を脇に押しやり、テーブル越しに珠希に身を寄せた。

「〝妻が僕のために弾いてくれるんです〟って真顔で爽やかにのろけるんです。男前のパワー炸裂で、今、脳外科病棟は宗崎先生の新婚生活のことでもちきりです」

遥香の母は面白がるようにそう言って、笑い出す。

「そ、そんな、新婚生活って……あの」

ここで碧の話題が出るとは思わず、珠希はうろたえる。

「あ、料理上手でなにを食べてもおいしいとも言ってましたね。遥香が珠希さんのことをすごくかわいくて優しいって熱弁するんですけど、今日お会いして納得です。お似合いで羨ましい」
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