エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
珠希はそのことに配慮できなかった自分を悔んだ。

「なにいじけてるんだよ。遥香ちゃんの手も足もリハビリ次第でちゃんと治るんだ。エレクトーンだけじゃないぞ。かけっこも水泳も、なんでもできる」

宗崎は遥香の手を両手で優しく包み込み力強くうなずいた。
宗崎の大きな手にすっぽり包み込まれた遥香の小さな手。
トレーナーの袖口からわずかに見える手首には、交通事故でできた傷痕だろうか、白い線が何本か浮かんでいる。
珠希は遥香たちの傍らに身を寄せ膝をついた。

「私も一緒なの」

珠希はブラウスの右手の袖を勢いよくまくった。

「見て。私にも同じ傷があるの。遥香ちゃんくらいのときに階段から落ちて右手の骨を折っちゃってね。手術をしてリハビリもやったの。リハビリは痛くて大嫌いだった。おまけに足の骨も折れたから歩けなくって、毎日泣いてた」

珠希の右手の手首周辺には、手術から二十年近く経った今も細く白い線のように残っている。

「わー。本当だ。傷がある」

珠希の右手を、遥香はまじまじと見つめる。
そして自分の手と見比べて小さな肩をがっくりと落とした。

「この傷、遥香のよりも薄くてよくわかんない。やっぱり遥香の傷、治らないんだ……それに、お箸でご飯を食べられないんだ……」

遥香はぐすりと鼻をすすり、唇をかみしめる。
同じようにケガをして手術を受けたのに、自分と珠希の傷痕のあまりの違いにショックを受けたようだ。
事故後半年しか経っていない遥香と、二十年が経っている珠希とではそれは当然といえば当然なのだが、それを八歳の子どもが理解するのは難しい。


「あ、あの、遥香ちゃん?」

珠希はどうしていいのかわからず、宗崎に思わず顔を向けたが、なぜか宗崎は笑っている。

「エレクトーン、遥香には無理」

目に涙を浮かべぽつりとつぶやく遥香の声に、珠希は首を横に振る。

「エレクトーンは鍵盤が軽いから、大丈夫」


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