エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
鍵盤が重いピアノはリハビリとしてはハードかもしれないが、エレクトーンなら鍵盤は軽いうえに自動演奏という機能もある。肉体的にも精神的にもラクに楽しめるはずだ。

「退院したら私がいる教室に来てみない? グリシーヌの曲が弾けるように教えてあげる」
「ほんと?」
「ほんとだよ。エレクトーンを弾きながら、一緒に歌うのも楽しいよ」

珠希の力強い声に、遥香は自分の両手とエレクトーンを交互に見つめる。
その目はエレクトーンへの好奇心でキラキラしている。

「遥香、エレクトーンを練習したいってママにお願いしてみる」

それまでの沈んだ声とはまるで違う遥香の明るい声が、ホールに響いた。
珠希はホッと息をつく。
そのとき、ホールの扉が慌ただしく開いた。

「遥香ちゃん、お部屋にいないから探してたのよ」

大きな声と同時に看護師がホールに入ってきた。
遥香を探していたようで、息が荒く肩を上下させている。

「師長、申し訳ない。リハビリのつもりでふたりで散歩してたんだ」

宗崎は立ち上がり、ステージ近くまでやって来た看護師に説明する。 

「宗崎先生、リハビリはいいですけど、ナースにひと声かけて散歩に出かけてくださいね」

困ったようにそう言って、看護師は遥香に視線を向けた。

「遥香ちゃん、お友達がお見舞いに来てくれてるから、戻りましょう」
「うん。わかった。あおい先生、ばいばい。それと……」

遥香は宗崎に椅子から下ろしてもらいながら珠希を見上げた。
どう呼べばいいのか迷っているようだ。

「私は珠希って言うの。来月のクリスマスイブにここでエレクトーンを弾くから、そのときにもしも病院にいたら聞きにきてね」

珠希はにっこりと微笑み小さく手を振った。




「打ち合わせ中だったのに、いきなり飛び込んで悪かったね」
「いえ、打ち合わせはほとんど終わっていたので大丈夫です」
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