エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
「ご挨拶が遅れましたが、音楽教室で講師をしております和合珠希と申します。遥香ちゃんがエレクトーンを本当に練習したいのならここに連絡を下さいと伝えていただけますか?」

家族の考えもあるのでどうなるのかはわからないが、もしも遥香がそれを望むなら力になりたい。

「和合……って」

名刺に記された珠希の名前を確認し、宗崎はいぶかしげに珠希を見つめる。

「あ、お医者様ならピンときますよね」

珠希は宗崎の言葉に気まずそうに答えると、表情を整え再び口を開く。

「父の会社がいつもお世話になっております。お気づきのようですが、父が和合製薬の社長を務めております。あ、ですが私は父の会社とは無関係です。名刺にあるように音楽教室の講師ですから」

和合製薬は白石病院にも多くの薬を納品している。
会社の印象に影響がないよう、珠希は丁寧に頭を下げた。

「君が和合製薬のお嬢さん……」

宗崎は信じられないとばかりにつぶやいた。
和合製薬の社長令嬢が家業以外の職に就いているのがそれほど信じられないのだろうか。
それともなにか機嫌を損ねるようなことをしてしまったのだろうかと、珠希は不安になる。
すると珠希の不安を察した宗崎が、表情を緩め口を開いた。

「もう一枚名刺をもらってもいいかな」
「あ、はい。それはもちろんかまいませんが」

珠希は名刺をもう一枚手渡した。

「ごめんね。名刺を持ち歩かないから。ここに書かせてもらうよ」

宗崎は珠希から名刺を受け取ると、胸ポケットに差していたペンを手に取りなにやら書き始めた。




その後小田原に挨拶を済ませ、珠希は白石病院を後にした。
これまで裏方として当日までの準備に専念していたクリスマスイベントに、今回は演奏者として参加する。
それが決まって以来抱えていた緊張感が、わずかに和らいだようだ。
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