エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
父の会社でMRとして働いている拓真は、終業後時間が合えば父とふたりで食事に行ったり実家に顔を出したりすることがある。
和合製薬の研究所で働く妻の茉耶が出張などで帰りが遅いときがほとんどだが、今日もそうだったのかもしれない。

「茉耶さん、出張かなにか? あ、こないだ倍率五十倍のグリシーヌのライブチケットが当たったって喜んでたけどそれかな」

珠希は茉耶が興奮しながら電話をかけてきた日のことを思い出し、くすりと笑った。
珠希と茉耶は仲が良く、拓真抜きでふたりで出かけることも多い。
茉耶は薬学部を卒業後和合製薬に入社し研究職ひと筋の優しくしっかり者の女性だ。
祖父が亡くなったときにはすでに拓真と婚約していて、落ち込む和合家の面々を家族の一員として支えてくれた。

「お兄ちゃん、茉耶さんの仕事が忙しいと機嫌が悪いし寂しがるからね。ほんと子どもみたい」

とはいえ、それが拓真の魅力のひとつだ。
昔から家族思いなうえに、いざとなるととてつもなく強い。
家業を継ぐと決めたときも、いっさいピアノへの未練を見せず新しい未来に向き合っていた。

「お兄ちゃんが来るなら連絡くれたらよかったのに。私も会いたかったな」
「珠希」

父の固い声に呼び止められ珠希は振り返る。

「なに? とりあえず手を洗ってくるね」

疲れているうえに空腹で仕方がない。
早く手を洗って豚の角煮を食べたい。

「見合いの話がある。次の日曜日だから空けておいてくれ」
「え?」

父の言葉に、珠希は眉を寄せた。

「……えっと、今なんて?」

たしか見合いと聞こえたが、これまでそんな話が出たことはない。

「父さん?」

父も母も表情を消して珠希を見つめている。
普段から笑みを絶やさないふたりのその様子に、珠希は不安を覚えた。

「見合いって、どういうこと?」
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