エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
「でも、シェフの腕はピカイチで文句なくおいしいから、期待していいよ。俺も病院を離れて気持ちを切り替えたいときとかに、食べに来てるんだ。ここだと呼び出しがあってもすぐに戻れるからね」
「呼び出し、ですか」
「脳外科だととくに冬場は救急で運ばれてくる患者さんが多いんだ。料理が届いたと同時に呼び出されたこともあったかな」
「それは……落ち着かないですね」

昨日もテレビの特集で冬場は脳卒中に気をつけるようにと伝えていた。
師走目前の今、脳外科医の多くは気の抜けない毎日を送っているのだろう。

「今日も呼び出しがあったら私にかまわず病院に行ってくださいね。あ、だから今日はこのお店を予約されたんですね」

一刻も早い治療が必要な患者が多いはずだ。珠希との食事など放り出して駆けつける場合があるに違いない。
それを見越してこの店を予約したのだろう。

「そうじゃない。それ、誤解だ」

碧は店に向かおうとしていた足を止め、珠希の腕を掴んだ。

「今日はドクターが何人か詰めてるから、呼び出されることはないと思う。だから気にしなくていいし、そのためにここを予約したわけじゃない……って言っても、病院が目の前にあるんだ、説得力ゼロだな」

碧は脱力し、苦笑する。

「気にならないと言えば嘘になりますけど、大丈夫です。だから呼び出しがあったときには私にかまわず――」
「わかってる。もちろんそのときは迷わず行くけど、せっかく会えたんだ。食事くらい楽しみたいよ」
「楽しみ? って……私との食事が、ですか」

意外な言葉に、珠希は目を丸くする。

「ああ。この間はゆっくり話せなかったし、連絡先を渡してもメッセージひとつこないから、気になってたし」

心なしか責めているような口ぶりに、珠希はぽかんとする。

「メッセージはその、遥香ちゃんのことでなにかあればって言われたので、なんだか送りづらくて」


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