エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
「そうはいっても遥香ちゃんから早く結婚しないとすぐにおじいちゃんになっちゃうよって真面目に言われたのはショックだったけど」
その日を思い返し、碧は笑い声をあげる。

「おじいちゃんはないよな。せめておじさんで手を打ってほしいよ」

そう言いながらも、遠慮のない会話を楽しめるほどの強い信頼関係が遥香との間にあるのがわかる。そして、それを楽しんでいるのだろう。
この間もほんの短い時間のやりとりだけで魅力的な男性だと感じたが、側にいればいるほど碧から目が離せなくなる。
この先も碧を見ていたい、もっと知りたいという強い思いが珠希の胸に込み上がってくる。

「俺が遥香ちゃんのお父さんと同い年って聞いたときは、さすがに色々考えたよ。あんなかわいい娘がいたら、それこそメロメロで、心配でたまらないだろうな」

駐車スペースを照らす淡い光の下、慈愛に満ちた表情が浮かび上がる。
その瞬間、珠希の鼓動が大きく跳ねた。

「あの、宗崎さん」

トクリと聞こえた心臓の音に促されるように、珠希は口を開いた。

「私、このお見合いを――」
「あ、悪い、寒いのにいつまでも店の外でこんな話、さっさと店に入ろう」

珠希が今の話に興味がないと勘違いしたのか、碧は入口ドアのノブに手をかけた。

「え……いえ、私は全然平気です」

碧の話をもっと聞いてみたい。
そしてこのお見合いを今日限りで終わらせたくないと、珠希はつい口を滑らせそうになった。
この見合いが家業のためだとわかっていても、初めて会ったときから碧に惹かれていたのだ。
今日ほんの数時間一緒に過ごしただけで、その想いはあっという間に大きくなった。
これっきりの縁にしたくないと、珠希は心の中で繰り返す。

「まずはノンアルで乾杯する?」

碧が珠希の背中に手を添えドアを手前に引いたとき、店内からひとりの客が勢いよく出てきた。
碧はとっさにドアに背を向け珠希を胸に抱きよせた。
< 44 / 179 >

この作品をシェア

pagetop