エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
紗雪と呼ばれた女性は碧との距離を詰め、一方的に話しかけている。

「相変わらず騒々しいな。それよりも、俺と会いたかったって、どうして?」

碧は眉を寄せ、愛想のない声を投げかける。

「この五年、連絡も取ってないのに、会いたい理由はないと思うけど」
「そ、それはそうだけど」

冷静すぎる声に怯み、紗雪は視線を泳がせた。
けれどそれは一瞬で、再び碧に向き直る。

「そんな固いこと言わなくてもいいでしょう? 久しぶりに会ったんだから、食事くらい。話したいこともあるのよ」

紗雪はめげずに食い下がる。

「少しでいいの。聞きたいこともあるし。ね、お願い」
「そのつもりはない」

碧は大げさに息を吐き出すと、腕の中で様子をうかがっている珠希をチラリと見下ろした。
紗雪に向けていた冷たい視線から一変、その眼差しはあまりにも優しく、そして近い。
おまけに背中に回されている手がそっと上下し、珠希は背筋に鋭い刺激が走るのを感じた。

「珠希」
「えっ?」

唐突に名前を呼び捨てにされ、珠希は肩を震わせた。
そんな珠希の動揺を知ってか知らずか、碧は余裕を滲ませた表情を浮かべている。

「彼女、珠希と近いうちに結婚する」

紗雪の顔を真っすぐ見すえ、碧はきっぱり言い放った。

「結婚? え、宗崎さん、あの、いったいなにを……」

珠希はぽかんと目を丸くする。

「碧が……結婚?」

珠希以上に驚いている紗雪を無視し、碧は珠希をいっそう強く抱きしめた。

「あ、あのっ……けほっ」

あまりにも強い力で抱きしめられて、珠希は息苦しさのあまりせき込んだ。

「仕事以外の時間はすべて珠希のために使いたい。だから紗雪と会うつもりはない」

碧は紗雪に向き合い、たたみかけるように言葉を重ねた。

「そんな……。でも、また連絡する」

これ以上粘っても仕方がないと考えたのか、紗雪はそう言い残し、立ち去っていった。
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