エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
背を向ける間際に碧に向けた熱のこもった視線。
言葉どおり、彼女はこれっきりにするつもりはなさそうだ。

「申し訳ない」

紗雪の姿が角を曲がって消えるのを待って、碧は軽く息を吐き出した。

「見合いの日だっていうのに、嫌な思いをさせてしまったよな」

珠希の身体を慎重に遠ざけた碧は、申し訳なさそうに目を細めている。
全身で感じていた碧の温もりが消え去り、珠希は物足りなさを感じた。

「彼女とはなんでもないんだ。この五年会ってないし、連絡も取り合ってない」

碧は力なくそうつぶやくと、珠希の肩に顔を埋めた。

「え、え。あの」

落ちてきた重みを肩に感じ、珠希はうろたえた。
おまけに碧の手が珠希の腰に回されていて、離れたくても簡単に離れられそうにない。

「悪い。少しだけ」
「それは、あの、かまわないんですけど……」

碧の声はかすれていて、ぐったりしている。
紗雪の前では終始冷静で固い表情を浮かべていたが、動揺しているのかもしれない。
そこまで彼女に会いたくなかったのだろうか。
珠希は不思議に思う。
紗雪は碧との再会を喜んでいるようにしか見えなかった。
この五年離ればなれで過ごしていたようだが、ふたりは昔付き合っていたのかもしれない。
だとすれば、碧も本音では紗雪との再会を喜んだが、見合い相手である珠希の手前、そんな素振りを見せなかったということだろうか。
ふたりの間にいったいなにがあったのだろう。
恋愛経験ゼロの珠希にはまるで未知の世界。
まったくわからない。
ただひとつわかったのは、碧と紗雪がお似合いだということだ。
美男美女のふたりが視線を絡ませ合うだけで、周囲の空気が華やいでいた。

「珠希っていい名前だな」

珠希の肩口に、碧のくぐもった声がこぼれ落ちた。

「あ、ありがとうございます。私も、気に入ってます」
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