エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
まだ慣れないが、宗崎に呼び捨てにされると自分の名前が特別なもののように思えるから不思議だ。

「祖父が名付けてくれたんです」

珠希はそう言って小さく息を吐き出し、気持ちを落ち着ける。

「おじいさん?」

宗崎は珠希の肩に顔を埋めたまま、小さく反応した。

「はい。溺愛していた祖母が、真珠が大好きだったんです」

再び感じる吐息に、珠希の身体がぴくりと震える。

「私にも祖母のように優しくて綺麗な女性になってほしいからと、真珠から一文字取って名前を決めたそうです」
「おばあさんはよほど素敵な人だったんだな」
「はい。それはもう、素敵な女性でした」

七年前に他界した珠希の祖母は、旧財閥の生まれで天真爛漫。
どこか浮世離れしていて優しい、それでいて芯の強い女性だった。
そして愛する夫の腕の中で息を引き取った、幸せな女性。
珠希にとっては永遠の憧れなのだ。

「私も、祖母のようになりたいんです」

愛する男性に愛される、幸せな女性になりたい。
そう思ったと同時に、珠希はハッと宗崎に視線を向けた。
彼は相変わらず珠希の腰を抱き、額を珠希の肩口に預けている。
愛する男性に愛される。
密かに子どものころから温めてきたその思い。
その男性が宗崎であればいい――。
ふと頭をよぎった思いに、珠希は頬を赤らめた。

「珠希」

宗崎は再びつぶやくと、そっと顔を上げた。
目の前に現れた端正な顔に、珠希は息をのむ。

「珠希。やっぱりいい名前だな。これから、そう呼んでもいいか?」

続く宗崎の言葉に、珠希は即座にうなずいた。 




想定外のハプニングはあったものの、その後ふたりは碧お勧めの料理を楽しんだ。
食事の合間に紗雪のことが何度も珠希の頭に浮かんだが、単なる見合い相手にすぎない自分は碧のプライベートに立ち入るべきではない。
そのことには触れず、一心に料理を楽しんだ。
料理だけでなく、居心地が良すぎる店内にも心は弾んだ。 
< 48 / 179 >

この作品をシェア

pagetop