エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
温かみがあるレンガ造りの外装と同じく、木目調で統一された店内にも優しい空気が流れていてホッと落ち着く。
それほど広くない店内にはカウンター席が五つ、四人掛けのテーブル席が六つ用意されていて、こじんまりとしているのも珠希は気に入った。

「本当に、おいしかったです」

珠希はナイフとフォークを揃えて置くと、向かいに座る碧に大きな笑顔を向けた。
ハンバーグと海老フライ、そしてミニオムライスがついたセットはボリューム満点で、あっという間に完食した。

「デザートもおいしそうですね。私、アイスクリームが大好きなんです」

アイスの盛り合わせが目の前に置かれ、珠希は目を輝かせる。

「なんでも食べるしたくさん食べるっていうのは、冗談じゃなかったんだな」

そう言って珠希をからかう碧も、なんでも食べてたくさん食べていた。

「宗崎さんこそ、昼間の和菓子をペロリと食べてましたよね」

緊張であまり食べられなかった珠希は、今ならしっかり食べられるのにと顔をしかめた。

「あれは本当においしくて俺のお気に入りなんだ。抹茶の風味が最高でテイクアウトすることも多いし」

自慢気に言われて、なおさら悔しくなる。
それにしても、と珠希は思う。
甘い物に目がないのもそうだが、今日数時間をともに過ごして知った碧の意外な一面のどれもが、彼の魅力のように思えて仕方がない。
遥香に贈る楽譜を真剣な表情で選ぶ一方で、初めて触れる楽器に目を輝かせる子どものような眼差し。
そして、患者の回復を第一に考える医師としての強い信念。
たとえ自身がからかわれたり感情をぶつけられたとしても、決して腹を立てない。
それどころかうれしいとまで言っていた。

「宗崎さんは根っからのお医者さまなんですね」

珠希はテーブルの向こう側でアイスを口にする碧を前に、つい声を漏らした。
< 49 / 179 >

この作品をシェア

pagetop