エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
珠希は小学校から大学まで私立に通っただけでなく、高校と大学は学費が格段に高い音楽学部だ。
ここでも明らかになった自分との違いに、珠希は苦笑する。 

「帰国子女で英語が堪能。いずれ海外で経験を積んで三十代のうちには起業したいと言って熱心に勉強していた」

碧は当時を思い返し、淡々と話している。

「そんな人もいるんですね。完璧すぎて、羨ましいとも思えないです」

相手がずば抜けて優秀だと、羨んだり妬んだりという負の感情すら生まれてこないのだと、珠希は初めて知った。

「完璧か……本人もそれを自覚していて自信もあったんだろうな」
「自信?」
「自信というか、プライドだな。もともと負けず嫌いで頑固。海外暮らしが長かったから自分の考えはしっかりと主張する。基本的に、自分に絶対的な自信があるんだよ」

静かに語る碧の言葉に、珠希は耳をかたむける。
話が進むにつれて、碧が紗雪を認め、一目置いているのがわかってきた。

「自信があるからこそ、俺が紗雪の告白を断るとは思ってなかったんだろうな」
「告白?」

珠希は大きく反応した。

「ということは、やっぱり紗雪さんは、宗崎さんのことが」

好きだったのだろうか。
そうに違いないと確信し珠希は碧をまじまじと見つめた。

「紗雪が俺と付き合いたいって言い出したのは、彼女が就職してすぐの夏だったかな。俺が好きだからつきあいたいって言い出したけど、就職を機に地方や海外に散った仲間たちと会えなくなって、寂しかったんだろうな。当時俺はまだ学生だったから、単に声をかけやすかったのもあると思う」
「宗崎さんは? 寂しくなかったんですか?」
「全然。もともと飲み会に頻繁に顔を出してたわけじゃないし。ハードな実習が続くうえに六年になると国家試験を控えて寝る間もないしで、寂しいどころじゃなかった」
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