エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
第三章 逆転プロポーズ
第三章 逆転プロポーズ

見合いの翌週、珠希は午前中のレッスンを終えた後、電車を乗り継ぎ碧から指定された駅に足を運んだ。
白石病院から二駅離れているここは、世界的に有名な高級ホテルが直結していて一日の乗降者数は多く、今も平日の昼間だというのに大勢の人が行き交っている。
珠希は人混みをよけながら、待ち合わせ場所に向かって歩みを速めた。
珠希がここにやって来たのは、今朝通勤途中の電車内で碧からメッセージが入り、急遽会うことになったからだ。
【遥香ちゃんの退院が決まったんだ。患者さんたちが用意してる寄せ書きにコメントを書いてもらえないかな。遥香ちゃんも喜ぶと思う】
思いがけない依頼に珠希は驚いたが、即座に「是非参加させてください」と返事をした。
自分のメッセージを遥香が喜んでくれるのかどうかは疑問だが、これからもリハビリが続く彼女の励みになればと思ったのだ。
遥香のこととは別に、珠希が碧と会うと決めた理由はもうひとつある。
碧と結婚はしないと、直接伝えなければならないからだ。
宗崎家から見合いを進めたいと正式な申し出があり、続けて碧からも電話で結婚に向けて付き合いを続けたいと伝えられた。
結婚はできないという珠希の意思は両親の胸に留め置かれ、今も先方には伝えられていない。もちろん、碧にも。
それどころか両親たちは早速結婚に向けての話し合いを始めていて、珠希の気持ちは二の次だ。
改めて両親と話し合おうとしても、聞き流され相手にしてもらえない。
それがもどかしい反面、両親がこの結婚を望む理由がわかるだけに、珠希は強く出られずにいる。
両親は、なによりもまず和合製薬を守らなければという使命感が、先立っているのだろう。
和合製薬は珠希の曾祖父が起業し親族一丸となって育ててきた会社だ。
今でこそ業界トップの売り上げを誇り国を代表する企業に成長したが、そこに至るまで
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