エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
白石ホテルの鰻店で結婚すると決めて以来、会えばいつも身体のどこかが触れ合っている。
とくに今日役所に婚姻届を提出してからは、絶えず碧の体温を感じているようで照れくさい。

「あ、母が持たせてくれたクッキーがあるんです。食べますか?」

椅子に腰を下ろそうとしていた珠希は、ふと思い出し碧を見上げる。
すると腰に回されていた碧の手に力が入り、抱き寄せられた。
抵抗する間もなく珠希は碧の胸にすっぽりと収まり、顔を上げると碧の形のいい顎が、目の前にある。

「クッキーもいいけど、まずはこっちだな」

空いている碧の手が、珠希の頬を包み込む。

「これが、夫婦になって初めてのキスか。……初めてだらけ、ひとつクリア」

色気のある声とともに、碧の唇が、珠希のそれにぴったり重なった。

「んっ」

息をつく暇もなく口内に舌が入ってきて、珠希は目を見開いた。
我が物顔で侵入した碧の舌は荒々しく動き回り、珠希の舌は躊躇なく吸い上げられる。

「や……っ」

結婚を決めてから、会うたびキスを交わしていたが、挨拶程度に重ねるだけのライトなものだった。
なのに突然ここまで激しいキスを与えられ、珠希はひどく混乱する。

「珠希……」

唇を重ねたまま、碧は熱い吐息と一緒に何度も珠希の名前を口にしている。
珠希の唇に想いを注ぎ込むような切実な声、そして紅潮した頬。

「んっ」

夢中になってキスを繰り返している碧に強く抱きしめられて、珠希の下腹部がじわりと疼いた。
とっさに身体をよじり、初めて知る甘い感覚をやり過ごす。
けれどそれは身体の深部に居座り、碧の舌が口内を刺激するたび、全身に広がっていく。
珠希は収まりそうにない疼きと大きくなる不安に困惑し、碧に強くしがみついた。

「珠希っ……」

全身を預けてきた珠希を碧は素早く受け止め、荒々しい動きでかき抱いた。
どんどん深くなる抱擁に目はくらみ、身体がくらりと揺れる。

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