クレオ*̣̩エシス
ιστορία*.1─P.S.─
『あ、そうそう。そこにあるテレビ、つけたかったらつけ良いからね』
夕飯とお風呂を済ませ、丁度月明かりが部屋に差し込む頃、部屋を去り際に幽見が残していった言葉だった。
「テレビのリモコンってこれかな……」
何気なくリモコンを手に取った羽月は、電源を入れようとして──。
カタンッ!
横から伸びてきた手によって、リモコンを取り落とした。
「深夜……?」
必死な形相で羽月の手首を掴んだ深夜は、ふと我に返ったように、手を離した。
「ご、ごめん!いきなり悪かった!」
「ううん。私は大丈夫だけど……」
訳が分からず、とりあえずリモコンを深夜に渡した。
「俺、テレビあんま好きじゃなくて。出来れば付けない方が嬉しいな」
困ったように微笑みながら、机の上にリモコンを置いた深夜に、羽月はこれ以上何も言えなかった。
「俺、今日は疲れたから、早めに寝るな」
「あ、わかった。私も寝る」
これ以上追求させないためか、早々に布団に潜った深夜。
羽月は、電気を消すと、自分も布団に入った。
カチカチと、時計の音だけが響く。
先程号泣してしまった為、なかなか寝付けない羽月は、カーテンの隙間から漏れる月明かりを眺めながら、今日の事を思い出していた。
今日の出来事は、羽月にとってありえない光景でもあった。
自分のことを、同時に2人の人が認めてくれた。
今まで否定されることが当たり前だった羽月にとって、本来ならば受け入れ難い出来事。
それでも、深夜が綺麗だと言った言葉が、頭から離れなかった。
お世辞でも、嘲りでもない。
純粋な感想。
羽月は人の目が苦手だった。
それは誰に対してもそうで、幽見も例外ではない。
彼女に向けられてきた視線は、気持ちのいいものではなかった。
視線から逃げようとしても、彼女の容姿が逃がしてはくれない。どこにいても注目を集めてしまう。
しかし、深夜だけは。
初めて見つめられたあの時から、何かが違うと感じていた。
それは彼の瞳の奥に灯る光のせいなのか。
それが何かは、まだ分からないけれど。
───深夜って、何者なんだろう。
気になったのは、つい先程の言葉。
『俺、テレビあんま好きじゃなくて』。
今どき、なかなか珍しいだろう。
テレビが苦手な人なんて。
何度か寝返りを打ちながら考えを巡らせていると、だいぶ時間が過ぎていたようだ。
そして、丁度月が雲に隠れた頃だった。
「────っ……あぁ……っ!!」
突如響いた小さな呻き声に、羽月の落ちかけていた意識が覚醒した。
「今の、深夜……?」
体を起こし、なるべく音を立てずにベッドから降りる。
「やめろ……母さんに…近っ、づくな……!!」
見ると深夜は、自分の腕を抱き、何かに怯えるように体を縮こませていた。
いきなりの事態に、羽月は困惑していた。
「これ、大丈夫かな……。幽見さんに───」
連絡した方がいいかと、身を翻した羽月の腕を
パシッ
「えっ──────」
何者かが取った。
「待って、くれ……っ。俺は…大丈夫、だから……!」
大丈夫と言う言葉の割には荒い息を吐きながら、必死に羽月を止めようとする深夜の姿があった。
「大丈夫には、見えないけど…」
「いや……いつもの事なんだ。もし起こしちゃったのなら謝る。…ごめん」
「それは…別にいいんだけど…」
まだ納得できない羽月は、ボタンと深夜を交互に見るが、真剣な深夜の瞳に、渋々ベッドに戻る。
───── 一体、どうしたんだろう。
自分を助けてくれた相手なのに、何も出来ないもどかしさを感じながら、羽月の意識は、徐々に薄れていった。