Liars or Lovers 〜嘘つき女と嘘つき男〜
「俺はちゃんと美羽さんが好きだ!」
プラスチックのカップを握りしめたまま、彼は叫んだ。
「そんなこと――」
「美羽さんと会えないって思って、胸が苦しかった。美羽さんが会えるって言ってくれて、すごく安心した。けど、すごくドキドキした。それに、美羽さんに触れたいって思った。あの時だって、最低だけど美羽さんに触れられて、ちょっと嬉しかった!」
口早に話す拓都さんは、語尾を強めてそう言った。
「美羽さんが好きだ! 美羽さんが好きなんだよ! 美羽さんが……好き……。今更、都合が良いこと……分かってる、けど……」
どんどん言葉尻が弱くなって、彼は両手をテーブルに落とした。
それ受け止めて、テーブルがカタンと揺れて音を立てた。
「でも、私は――」
「分かってる。美羽さんの信用がないのは。美羽さんが、不安なのは。でも、俺は美羽さんがいい。美羽さんじゃなきゃ嫌だ。恋するなら、美羽さんじゃないと……」
泣かれたって、ここで「はい、いいですよ」なんて言えるほど、私は単純じゃない。
分かってるって言うなら、私を困らせないでよ。
私は、君となんて――
「どうしたら信用してもらえる? どうしたら恋してもらえる? どうしたら一緒にいてもらえる?」
無理だよ、だって君のこと、私は――
「俺、美羽さんのこと傷つけないよ? 俺、美羽さんのこと大事にするよ? 俺、美羽さんのこと裏切らないよ?」
そんなこと、言ったって――
「俺、一生美羽さんと一緒にいるよ? 浮気なんて絶対しないよ? 触れるのは、美羽さんだけがいい。美羽さんじゃなきゃ嫌だ」
でもね、私はもう傷付きたくないし、それに――
「ごめんね。でも私、もう失敗できないの」
「え……」と、彼が顔を上げた。カタンと、プラスチックのカップが地面に転がった。
「そういう若い気持ちだけで、恋なんてできないの」
「何で? 好きって気持ちの他に、何が必要なの?」
「だって、君は――」
彼ははっとして、私の言葉を遮って口早に言う。
「俺が社会人じゃないから? 俺に稼ぎがないから? だったら、俺在学しながら働くよ? 美羽さん一人養えるくらい稼ぐよ?」
「違うよ、そういうことじゃない」
ほら、ね、と心が言う。
君と私は、合わないんだよ。
「私はね、恋の賞味期限切れの女なの」
「え……」と、彼の口が止まった。
「30歳。失敗したから次の恋、とはもう行けない年齢。周りはどんどん結婚して、子供が産まれて、私は独身で、彼氏もいなくて、でも出産の適齢期ギリギリで、未来のこと考えたら、悠長に恋してる時間なんてないの!」
思わず強い口調で言い切ると、拓都さんはテーブルをダンッっと叩いた。
「さっきから失敗失敗って、俺との恋は失敗するの?」
「それは分かんない」
「じゃあいいじゃん」
「でも、私はまだ君を信頼してない」
「これから信頼してよ! ほら!」
急いで財布から免許証と学生証を取り出した彼。
でもね、そういうことじゃない。
「紙に書いてさ、一生美羽さんだけを愛しますって、契約すればいいよ」
「でも、君は未来のこと考えてる?」
「え……?」
「35越えたら高齢出産。ってことは、子供が欲しかったらあと5年で産まなきゃいけない。君はまだ25歳。大学を出て、働く盛りの歳。もしかしたら、まだ大学院生かもしれない」
「そんなのいいよ、俺が美羽さん養うくらい――」
「じゃあ、その先。君が30歳になった時、私40歳。君が40歳になった時、私は50歳。そんなの――」
「美羽さんが110歳になった時、俺は100歳。美羽さんが1010歳になった時、俺は1000歳。そしたらもうあんまり変わらないでしょ!」
「え」と思わず彼を見ると、真剣な瞳とかち合う。
「俺は、そのくらい、美羽さんが好き」
「拓都さん……」
「ねえ、ダメ? 俺じゃ、美羽さんの恋人になれない?」
彼の声は小さくなっていく。
そのまっすぐな気持ちが痛い。
また裏切られるんじゃないかという気持ちが、胸を支配する。
黙っていると、拓都さんは前のめりになっていた身体を元に戻した。
けれど、それは随分と小さくなってしまったような気がした。
それなのに、一度下を向いた視線がまたこちらに向けられる。
「本当はこんなこと言う資格なんて無いこと、分かってる。でも、もうこの気持ちをどうすることもできないから……だから……だから……」
秋の夜の少し冷たくなった風が吹いた。
横に流していた髪が顔にかかって、それが元に戻っても、拓都さんはじっとこちらを向いたままだった。
「……僕と、恋してくれませんか?」
その瞳を見つめ返して、私は――
〈完〉
プラスチックのカップを握りしめたまま、彼は叫んだ。
「そんなこと――」
「美羽さんと会えないって思って、胸が苦しかった。美羽さんが会えるって言ってくれて、すごく安心した。けど、すごくドキドキした。それに、美羽さんに触れたいって思った。あの時だって、最低だけど美羽さんに触れられて、ちょっと嬉しかった!」
口早に話す拓都さんは、語尾を強めてそう言った。
「美羽さんが好きだ! 美羽さんが好きなんだよ! 美羽さんが……好き……。今更、都合が良いこと……分かってる、けど……」
どんどん言葉尻が弱くなって、彼は両手をテーブルに落とした。
それ受け止めて、テーブルがカタンと揺れて音を立てた。
「でも、私は――」
「分かってる。美羽さんの信用がないのは。美羽さんが、不安なのは。でも、俺は美羽さんがいい。美羽さんじゃなきゃ嫌だ。恋するなら、美羽さんじゃないと……」
泣かれたって、ここで「はい、いいですよ」なんて言えるほど、私は単純じゃない。
分かってるって言うなら、私を困らせないでよ。
私は、君となんて――
「どうしたら信用してもらえる? どうしたら恋してもらえる? どうしたら一緒にいてもらえる?」
無理だよ、だって君のこと、私は――
「俺、美羽さんのこと傷つけないよ? 俺、美羽さんのこと大事にするよ? 俺、美羽さんのこと裏切らないよ?」
そんなこと、言ったって――
「俺、一生美羽さんと一緒にいるよ? 浮気なんて絶対しないよ? 触れるのは、美羽さんだけがいい。美羽さんじゃなきゃ嫌だ」
でもね、私はもう傷付きたくないし、それに――
「ごめんね。でも私、もう失敗できないの」
「え……」と、彼が顔を上げた。カタンと、プラスチックのカップが地面に転がった。
「そういう若い気持ちだけで、恋なんてできないの」
「何で? 好きって気持ちの他に、何が必要なの?」
「だって、君は――」
彼ははっとして、私の言葉を遮って口早に言う。
「俺が社会人じゃないから? 俺に稼ぎがないから? だったら、俺在学しながら働くよ? 美羽さん一人養えるくらい稼ぐよ?」
「違うよ、そういうことじゃない」
ほら、ね、と心が言う。
君と私は、合わないんだよ。
「私はね、恋の賞味期限切れの女なの」
「え……」と、彼の口が止まった。
「30歳。失敗したから次の恋、とはもう行けない年齢。周りはどんどん結婚して、子供が産まれて、私は独身で、彼氏もいなくて、でも出産の適齢期ギリギリで、未来のこと考えたら、悠長に恋してる時間なんてないの!」
思わず強い口調で言い切ると、拓都さんはテーブルをダンッっと叩いた。
「さっきから失敗失敗って、俺との恋は失敗するの?」
「それは分かんない」
「じゃあいいじゃん」
「でも、私はまだ君を信頼してない」
「これから信頼してよ! ほら!」
急いで財布から免許証と学生証を取り出した彼。
でもね、そういうことじゃない。
「紙に書いてさ、一生美羽さんだけを愛しますって、契約すればいいよ」
「でも、君は未来のこと考えてる?」
「え……?」
「35越えたら高齢出産。ってことは、子供が欲しかったらあと5年で産まなきゃいけない。君はまだ25歳。大学を出て、働く盛りの歳。もしかしたら、まだ大学院生かもしれない」
「そんなのいいよ、俺が美羽さん養うくらい――」
「じゃあ、その先。君が30歳になった時、私40歳。君が40歳になった時、私は50歳。そんなの――」
「美羽さんが110歳になった時、俺は100歳。美羽さんが1010歳になった時、俺は1000歳。そしたらもうあんまり変わらないでしょ!」
「え」と思わず彼を見ると、真剣な瞳とかち合う。
「俺は、そのくらい、美羽さんが好き」
「拓都さん……」
「ねえ、ダメ? 俺じゃ、美羽さんの恋人になれない?」
彼の声は小さくなっていく。
そのまっすぐな気持ちが痛い。
また裏切られるんじゃないかという気持ちが、胸を支配する。
黙っていると、拓都さんは前のめりになっていた身体を元に戻した。
けれど、それは随分と小さくなってしまったような気がした。
それなのに、一度下を向いた視線がまたこちらに向けられる。
「本当はこんなこと言う資格なんて無いこと、分かってる。でも、もうこの気持ちをどうすることもできないから……だから……だから……」
秋の夜の少し冷たくなった風が吹いた。
横に流していた髪が顔にかかって、それが元に戻っても、拓都さんはじっとこちらを向いたままだった。
「……僕と、恋してくれませんか?」
その瞳を見つめ返して、私は――
〈完〉


